2019/3/28
イベントレポート
2019年2月15日(金)
セルフビルドにまつわる連続トーク・第1回「仕事と生活を自分で作る『ナリワイ』」を開催しました。
センターが活用する建物・旧神戸生糸検査所は、輸出用の生糸の品質検査を行う検査所として、昭和初期に建てられた建物です。KIITOとして2012年にオープンするまでの間にも、幾度かの用途変更や改修工事が行われてきたため、その過程で、取り残された余白のような空間が生まれています。そこで、それらの余白空間に自分たちで手を加えて、より使いやすくすることを目指す「セルフ・ビルド・ワークショップ」を開催してきました。
2018年度は、そもそも「セルフビルド」ってどういうこと?という素朴な疑問への答えを探すべく、「セルフビルド」を文字通り「自分でつくる」に変換して広義にとらえ、関係する活動を展開する講師をお招きした全3回の連続トークを行いました。
第1回の講師は、誰もが自前の仕事にアクセスできる仕事の民主化をテーマに、複数の生業(ナリワイ)を持つ自営業の実践と研究に取り組む伊藤洋志さん。ナリワイの定義=小さい資金で始められて「技が身に付き心身が鍛えられる仕事」とは、まさにセルフビルドでは!?と考え、お招きしました。
当日はレクチャーと質疑応答を半々くらいの時間配分で行いました。レクチャー部分では、多くの部分をナリワイ≒セルフビルドに読み替えて解説してくださいました。当日のお話から印象的な部分をまとめましたので、ナリワイ≒セルフビルドと頭の隅に置きつつご覧ください。
ナリワイって?
ナリワイは伊藤さんがつけた屋号のようなもの。世の中の仕事は、会社に勤めたり、起業したりといろいろあるが、生活の中から自分で仕事をつくってやっていこうではないか、それをビジネスではなくナリワイと呼んでいる。
会社の仕事は、雇用主が用意した環境の中で行われるため、自分の理想を実現するのは難しい。自分で仕事をつくれば調和して、仲間も育つ。
大きな仕事は、国内外の経済情勢などの変化に振り回されることがあるが、自分の身の回り、自分が相手にできる範囲での小さな仕事なら、そういった大きな流れになるべく振り回されないように生活できるだろう。
メディアでは、世界中の人がどこでも使えるような商品を提供する企業が取り上げられがちだが、個人が独立して仕事をやっていこう、と思った場合の手法はあまり研究されていない。100万人が欲しがるものではなくて、3000人~1万人程度の人が、これあったらいいぞ、と思えるようなもの、少し不便なもののほうが、世界に巻き込まれなくていい。基本的には、交換が成立すれば、なんでも仕事になる。
ナリワイ(≒セルフビルド)の良いところ
資金的なハードルがはずせる。家を買うなら、最初に全額用意していないといけない。3年くらいかけて家を直すなら、資金投入のタイミングを自分で選べる。
資本主義が出てきた頃は、だいたい、価格に見合うものが必ず存在すると思われていた。だが、長年やってみたら、そうでもないらしい。無駄に高いものがあったり、お金を出しても、技術が残ってなくて作れないこともある。たとえば、家を安く買ったけど、改修費用が同じくらいかかる・いくつかの資材が非常に高い、となると、強制的にルートが決まってくる。それは、ある種不自由なこと。それとは別のルートを作れる、ややこしいツボに巻き込まれないのがセルフビルドのおもしろいところ。
自分の好きな設定で作れる。できるだけ自分ができる領域を増やした方が、本来必要なものが手に入りやすい。
普通は量産しないとビジネスになりにくいので、平均値の商品が増える。お金を出しているにも関わらず、業者に任せると自分の意に反した判断がなされてしまうことが起こりうる。プロの大工さんに、廃材をうまいこと組み合わせて作ってくださいと言っても、考える時間が発生するので、仕事としては効率が悪く、採算に合わないからできない、となってしまう。
おもしろい。普通にやると、なんでも分業化されてつまらない、スポーツでいうと代打ばかり、みたいな現象がけっこうある。セルフビルドはゼロから完成までを全部体験できるので、発見が多い。やってよかった、次もやりたい、という気持ちがわく。人間にとって大事な部分。
ナリワイの具体例
モンゴル武者修行ツアー。旅行は、一般的には、旅行代理店で商品として組まれているツアーに参加するものだが、自分が行きたかったがちょうどいいのがなかったことから生まれた。普通の商品は、確実に提供できるものをあらかじめ示さなければいけないが、これは参加者がやりたいことを出し合って内容を決めている。あくまで、自分もやりたいし、これ1個で生計を立てなくてもいいという前提のもとで。ある種、かなりのエネルギーを投入できる。小さい仕事でも、やっているうちにやりたいことが増えて、仕事が成長していく。
田舎でパン屋を開く。何かと商品として成立するものをつくっていくと、中身は薄くなると同時に、値段が高くなっていくという現象がある。専門学校を見ると意義を疑ってしまうコースができていたりする。
パン屋になるには調理師専門学校に行くのが一般的だが、学校が考えるパン屋像=大きな機械と大きな店舗、は、田舎では適用しにくい姿であったりする。田舎のパン屋を目指す専門学校を作るとまたお金がかかるので、平日にあまっているパン屋を活用する。
2人の先生の元に1人の生徒が来て、パンを作りながら、夜は田舎暮らしの話を聞く。パン屋のほうも、たまにやるならおしゃべりの相手もできて、一石二鳥。年間10人程度。これもセルフビルド。セルフビルドの対象物は建築物に限らず、いろいろな分野に見つけることができる。
セルフビルドは基本的に効率はよくない。特に素人からのスタートは時間がかかる。逆に素人なりの良さがあり、過剰な効率化を図らないくていいし、大量に作らなくていい。
日本の特殊な事情に、人材派遣業の多さがある。これは働く人より、働く人を送りこむ事務作業をする人が多いことを意味する。その人達の仕事代がかかっていて、実際に働く人には回ってこない。セルフビルドに一見関係がないが、一緒に働く人を探す手間を誰かに丸投げしているやりかた自体を、自分たちの手でやれるように、こういうところをセルフビルドしていく必要性がある。いきなりそこにはいけないが、自分たちがセルフビルドする領域を少しずつ増やすことによって、人間に直接対価が払われるようなことができないか、というのが、一つの問題意識。
SAGYO。農作業をしているとジャージでは穴だらけになる現象にあたり、農作業服の製造元を調べたら、中国やベトナムばかりだった。自給率をあげようと頑張ってるんだから、日本製の作業着があってもいいのでは、という思いをきっかけに立ち上げ。アパレルメーカーの定石を1個1個見ていくと、省けそうな行程がけっこうある。
自分のナリワイをどう探すか
いわゆる起業の本で言われていることとはズレるが、ナリワイは、受け取った人が喜べばいい。オシャレなパッケージをつくらなくても、中身が良かったらいい、必要な人におすそ分けするような感じ。
重要なのは「自分の生活に使えるもの」だけをやること。
流行っているという理由だけで自分が興味もないものをやると、興味がないからどの点をがんばったらいいかわからない。自分が必要なことなら、大事なポイントと、がんばらなくていいポイントがわかるので、そんなにはずれることはない。
江戸時代の家守など、過去にもいろいろなナリワイがあった。いきなりゼロからナリワイを考えるのは難しい人には、昔はあったが今はなくなっている職業に着目すると手っ取り早い。今の技術を応用してリバイバルできる場合もある。仕事のリノベーションみたいな感じ。
その気になれば、できるかもしれないことを挙げておく。それを知っておくだけで、役に立つかもしれない。その気になれば、温泉も掘れるし、ブロック塀も壊せるし、竹の家も作れる。
なお、セルフビルド=良いもの、という雰囲気があるが、なんでもセルフビルドにする必要はない。やる理由を考えないと、ふとした拍子に飲み込まれる。小屋やツリーハウスが数年前から流行ってきて、キットが売り出されるようになっている。それが好きな人は良いが、本来目指していたものはなんなんや、と考えていくのも大事。
やると消耗していくケースもある。セルフビルドは、消費するというよりは、自分でもうちょっと関与し、ずらしていくという行為。やってて消耗してないか、エネルギーがわくか、飽きないか、をチェックしていく。おもしろくなかったらやめればいい。世の中にいきなり直接アタックしても疲れるので、とりあえずせっかくやるなら楽しくやって、気が付いたら変わってる、みたいなことができればいい。
実際の事例もたっぷり、参加者との対話を交えながらのレクチャーで、自分の身の丈に合ったナリワイ≒セルフビルドを取り入れるヒントを獲ることができました。
セルフビルドにまつわる連続トーク1:仕事と生活を自分で作る『ナリワイ』
http://kiito.jp/schedule/lecture/articles/32346/