2013/8/16
イベントレポート
2013年8月5日(月)
インフォグラフィックスを専門としているチューブグラフィックスの木村博之氏を迎え、情報のデザインや考えていくための視点などお話しいただきました。
津波の記憶
私は宮城県女川町出身です。1960年のチリ地震津波のとき、私は3~4歳で、祖母の背中にしがみつき近くの神社へ避難した記憶があります。東日本大震災のときは家ごとすべて流され、何もなくなってしましました。1896年明治三陸津波、1933年昭和三陸津波、1960年チリ地震津波、2011年東日本大震災と約30年に1回大きな津波が起きています。皆の記憶にあるうちは一生懸命に訓練や避難を行うが、世代が変わり、30年と時間が流れることで、だんだんと記憶が薄くなってしまいます。記憶をつなげるためにはどうしたらいいのか、それがとても重要だと思います。
情報をつなぐ
東日本大震災で私の実家には19mの津波がきました。小学生の時に帰り道によく遊んでいた神社があり、そこも津波によって大きな鳥居や神輿の建物が崩れていました。神輿の建物の裏に「大地震の後には津波が来る地震があったら津波に用心」とかいた石碑がありました。津波でこの建物がなくなるまでは気づきませんでした。なぜ、今までわからなかったのか、もしも石碑のことが話題になっていれば被害も変わっていたのではないかと思います。
インフォグラフィックス
デザインを考える際、コンセプトは大きな柱になります。一番重要なのは、何を伝えたいのか、メッセージ、コンセプトだと思います。また、観察、リサーチ、インタビュー、この3つがなければものは伝わりません。情報をつないでいくためには、データを情報にする、情報を伝える、そしてそれが誰かに伝わることによって知識になります。その伝わったことがまた誰かにつないでいき、知恵になっていきます。ただ見るだけでなく、次の行動を生むことが津波避難情報板にとっても大切なことだと思います。
コンセプト、観察
サインを考える際、「相手の気持ちを考えているのか」「幸せになる経験をもたらしているのか」を考えています。まちなかのサインを見ていると、わかりづらいものなどを良く目にします。例えば、東京駅構内にある路線のホームを案内するもので、「成田エキスプレス」はロゴマークが矢印のような形をしており、ホームの場所を示す矢印と混同してしまいます。案内などのサインの場合、見た人が時間をかけずに簡単に行きつく方向を示さなければなりませんので、サインの前でじっくり考えなければいけないものは良くありません。意識させないようにその場に連れて行ってくれることが重要なデザインだと思います。
共感できるイメージ
飲食店の成績をグラフ化するという雑誌の企画を担当しました。中華料理店で私が考えたのは、五角形のレーダーチャートのグラフを「グラフを見ただけでよだれが出てくる」「見ただけで餃子のにおいが漂ってくる」そういった感覚をどのようにしたら表現できるかです。それでできたのはグラフの中央部に酢とラー油が混ざったようなタレを表現しました。この時に私の頭の中では、飲食店に自分が入っていき、そこで見た表現や家族連れで来た時にじっとしていない子どもコップを倒し水がこぼれたところからアイデアが生まれました。店の中でも自分の目で見るだけでなくて、いろいろ風景や物語をたどっています。グラフを見た人が同じようにシーンを想像し、共感できるように考えています。
情報の演出
小学生向けの「メディアの目」というNHKの10分番組があります。それに出演しました。はじめにNHKから新幹線のグラフを使いたいと連絡がありました。新幹線のグラフは少し歪めてつくっており、子どもには難しくあまり良くないのではないかと返答しました。その新幹線のグラフは、速度を比べたグラフです。新幹線はここ50年で約80㎞速度が上がりました。年数をかけてたった80㎞かと思うかもしれませんが、1㎞速度を上げるには大変な苦労をしています。グラフを少し歪め、速度の上昇を際立たせた表現をしました。このグラフを使って、小学生がグラフを歪めることが良いのか悪いのか、こんな時には歪んでもいいのかなど議論ができるということで、ディスカッションの場に使用したいとうことで扱うことになりました。
参考:http://cgi2.nhk.or.jp/school/movie/bangumi.cgi?das_id=D0005180076_00000&year=2013
質疑
永田(講師):
木村さんから私達の取り組む課題を見て、津波をどうやって伝えるのかについて、最初に浮かんだイメージなどはありますでしょうか。
木村さん:
私の住んでいたところには駅をホームまで上がる階段の途中に、津波がここまで来ましたという表示がありました。他のまちでも津波がここまで来たと案内板があります。それらが日常化してしまっており、誰も気にしなくなってしまっています。いつもそこにあることで風景になってしまい、ものを考えなくなってしまいます。ゲーム感覚で危機を考えるということをやったら続いていくのではないかなど考えています。後世の人にどうやって伝えるのか、つなぐのかそれが重要であると思います。
ゼミ生:
観察、インタビューが重要であるとのことですが、インタビューについて良いやり方などありますでしょうか。
木村さん:
簡単に言うと、入り込むということが大切です。上に構えて何かをしようとするのではなく、同じ気持ちに自分も入っていく、視点を変えるという事は当事者の視点にもなるという事なので、全く同じではなくても、その現場に入り込むことがまずは大事です。また相手の気持ちに寄り添うことも大切なことだと思います。
+クリエイティブゼミvol.7 防災+まちづくり+観光編
「神戸発:日常的にも活用される津波避難情報板を企画する」
http://kiito.jp/schedule/seminar/article/4227/