2013/11/4
イベントレポート
タイを代表するゲームデザイナー・ラッティゴーンさん。これまでに「環境汚染」「サスティナブル社会」「デモクラシー」などをテーマにゲームを制作してきました。
ユネスコ主催のゲーム作りワークショップの講師を務め、ドイツやインドでもワークショップを開催してきました。今回の展覧会の会期中には、「地震」をテーマにゲーム作りワークショップを開催します。このレクチャーではラッティゴーンさんがゲーム開発を始めたきっかけや、なぜ社会課題をテーマにしようと思ったのかについて、詳しくお話しいただきました。
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子どもには質の良いおもちゃを与える
ラッティゴーンさんは、大学で工業デザインを学んだ後、タイの教育玩具メーカーに勤めていました。その時期に、イギリスで約20名の参加者と共に、視覚障害の子どもたちのためのゲームをつくる機会があり、この経験がラッティゴーンさんの考え方を大きく変えました。自分がゲームを開発する事で、子どものため、社会のためになることが分かり、社会課題をテーマとしたゲームを製作するため、それまでの会社を辞めました。その後、ロンドンにある「Greenwich Toy & Leisure Library」という障害を持った子どもたちとその親のための、教育支援を行っているおもちゃのライブラリで働くようになりました。その後、日本でワークショップをする機会を経て、「子どもには質の良いおもちゃを与えること」「質の良いおもちゃを与えられる環境をつくること」の重要性を感じ、タイに戻り、タイの子どもたちのためのおもちゃやゲームを開発するため、自身で会社を立ち上げました。
最初の目標は、「質の良いおもちゃ」「環境に良いことを学べるおもちゃ」を市場に出したいということでした。数年後には、開発したゲームが賞を取ることができ、多くの人に活動を知ってもらうことができました。
世界中でワークショップをすること
ラッティゴーンさんの夢は、「世界中のだれもが質の良いおもちゃにふれられること」なので、タイでゲームを開発しながらも、時間がある限り世界中を旅して、訪れた国々でワークショップを開催していきました。例えば、アルメニアで障害のある子どもたちのためのおもちゃを、セラピストやデザイナー、建築家など様々な人と2週間で開発するワークショップの講師を務めました。各地で、おもちゃのデザインをすること、ゲームを開発するワークショップをすることで、社会的ビジネスに介入しようとしてきましたが 、ラッティゴーンさんが各地で、おもちゃのデザインをすること、ゲームを開発するワークショップをすることで、社会的課題の解決を図る取り組みに関わってきました。その中でラッティゴーンさんが一番伝えたかったことは、「若い人にはみんな力がある」「必ず社会を変える力がある」ということです。
また、色々な国を訪れたことで、デザイナーやソーシャルワーカーなどとの様々なネットワークができました。
ゲームで社会課題に挑む
近年、バンコクの街は急激に成長したため、社会インフラの整備が追い付いていなく、たくさんできたショッピングモールのため消費が多くなり、ごみがあふれるという問題が出てきました。2年前には大洪水が起こり、住民レベルではどうにもできないほどの大きな被害を受け、自然災害への対策も大きな課題となっています。色々な組織・団体がその次々に起こる社会課題に対して対処的な行動を起こし解決していったこともありましたが、ラッティゴーンさんが考えた問題解決の本質とは、「人そのものの考え方を変えていかなければいけない」ということでした。
これからの社会を担っていく子どもたちの考え方がとても大切であり、手の中には未来があります。子どもの手に、ものの正しい考え方を身に付ける適切な道具を与える事で社会を変えていくことが可能であり、その道具こそがゲームであると考えたのです。
この考えをもとに、ラッティゴーンさんは社会課題をテーマにしたゲームを開発しています。
※ラッティゴーンさんが開発したゲーム
左上:“ゴミの分別”をテーマにした「Recycling Memo Game」
右上:“自給可能な経済の仕組み”をテーマにした「Give&Take」
左下/右下:“ライフサイクルアセスメント”をテーマにした「Eco Go Game」
楽しく学べる=普及していくゲーム
「良いゲームをつくる」というのと同じくらい、「普及していく(人気のある、楽しめる)ゲームをつくる」ということはとても重要です。せっかく良いゲームが出来上がっても、ただお店の棚に並んでいるだけでは、世の中に普及させる事はできないからです。新しいトピック・仕組みでゲームを開発し、子どもたちが楽しめるものとすることで、いかに多くの人に手にとってもらえるかが決まります。
ゲームを製品化していく際には、クライアントが「こんなゲームがほしい」
と依頼をしてくるのを待つことの方が多いそうです。自分自身の提案だけでなくクライアントがもともと持っている考えをヒアリングしそれをかたちにしていく方が、課題解決のニーズに合い、すぐに製品化する事ができます。
一言にゲームといっても、開発するプロセスには様々な要素があります。社会課題をテーマとして盛り込むことは、そのストーリーをしっかりと組立て、伝えるべき相手に分かりやすいツールになっていることが、普及していくゲームになるポイントなのです。
日本では、あまり耳にしないゲームデザイナーという職業ですが、ラッティゴーンさんの「子どもには質の良いおもちゃを」という想いと、社会課題をゲームのテーマとしている解決に対する向き合い方は、教育的観点をも持った活動家であることをとても感じました。
今回、レクチャーの中で話して頂いた内容の実践として、展覧会会期中にラッティゴーンさんと参加者が一緒に、行ったゲーム作りワークショップ(10/8~13)のレポートはこちら