2013/11/8
イベントレポート
2013年10月11日(金)
タイにおいて、日用品を活用した洪水対策知識・技術の普及や防災教育に取り組むDesign for Disasters(以下D4D)の協同設立者で、中心メンバーとして活動するウィパーウィー・クナーウィチャヤ―ノンさん。対談相手として、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)副センター長・永田宏和がレッドベア・サバイバルキャンプの活動を中心に紹介し、災害時の知識や防災教育と、それを広げる実践について意見交換しました。
まず、ウィパーウィーさんにD4Dの活動を、スライドを使用しながら紹介していただきました。
Thai Thai Daijyobu!
EARTH MANUAL PROJECT展での展示プロジェクト名でもある「Thai Thai Daijyobu!」は、タイの人のメンタリティー、楽観的な国民性を表しています。そんなタイの人々に、災害時に生き延びるためのクリエイティブな視点や知識を持ってもらうための活動を、アプローチや協働の概念図を使って詳しく説明いただきました。
日用品を用いた浮き具の実験 その1(アユタヤ:2010年)
ペットボトルやゴミ袋といった日用品から浮き具をつくるアイデア。この時点の課題として、使用に際しての安全性の検証は行われていなかったことが説明されました。
SURVIVE! デザインコンペティション(2011年8月~2012年1月)
身のまわりの26アイテム(傘やハンガーなど)を用いた洪水対策グッズのアイデアコンペを実施。
安全性の検証はされていないが、災害時に生き延びるためのアイデア、創造性への刺激として有効であると確信しているとのこと。このコンペでの入選作品の展示会は、バンコクのフアランポン駅やコンベンションセンターで開催されました。
日用品を用いた浮き具の実験 その2(バンコク:2013年)
ファッション分野や写真家などのクリエイティブな技術を、災害を乗り切る場面で生かしてもらう取り組みとして、アーティストとのコラボレーションで実験を行いました。枕カバー、竹かご、Tシャツ、網とペットボトル、またゴミ袋やサロン(布)などを使用した浮き具のアイデアを紹介いただきました。デザイナーから提案されたその他のアイテム紹介や、協働での成果をまとめたインフォグラフィックの紹介もありました。
その他の進行中のプロジェクト
タイ政府(厚生省、文科省、福祉省)の協力を得て制作を進めている2つのゲーム(11月記者発表予定)を、タイ11州の学校で実際に遊んでもらい、改善していくプロジェクトが進行中です。これは、来年にはミャンマー語、ビルマ語に翻訳してASEAN諸国に広める構想もあるそうです。
また、アユタヤでの洪水のリスクのある地区を見つけるマップ制作を子どもたちと行っており、マップの裏には災害に備えた持出品などが記載されています。
最後に、タイ洪水時の市民のユニークな写真をお見せいただきました。そこからは、深刻な状況を受け入れつつ、ユーモアのセンスを忘れないタイの国民性を垣間見ることができました。このような柔軟性をもつタイで、D4Dの活動は人々のクリエイティビティーへの刺激となることを目標として展開されていきます。
レッドベア・サバイバルキャンプ
次に、永田がレッドベア・サバイバルキャンプを例に、防災教育のコンテンツの企画と開発から、どのようにして学ぶ場を作るか、どのようにすれば多くの人に伝わるかを、スライドを用いて説明しました。
災害時などに必要な技術を、キャンプでの実践を通して習得するプログラムが、レッドベア・サバイバルキャンプです。
一般の人たちと「ゼミ」の中でプログラムを作成し、子どもたちに興味を持って参加してもらえるバッチシステムを考案した経緯、そして、寄藤文平さんにイラスト、岡本欣也さんにコピーでご協力いただいた「ブランディング」も重要な要素となっていることが説明されました。
サバイバルキャンプクラブのメンバーは、ミーティングで考案したプログラムを試すデモキャンプを経て、それを伝える場としてのサバイバルキャンプを実施します。開催地域の担い手であるメンバーがプログラムを考案することで、その地で必要な技術や知識が伝わります。
例えば、福島県いわき市では「レッドベアいわき防災キャンプ」として実施されており、同地では、震災の経験から水の大切さを知るプログラムなどが実施され、オリジナルのバッチが制作されています。
いわきやそのほかの地域において、神戸で実施しているプログラムがそのまま広がるのではなく、学びの場としてのサバイバルキャンプとバッチシステムが広がり、新しいプログラムが各地で生まれることが、目的と展望として話されました。
対談のなかで、D4Dの活動を広げるための構想やプロジェクトのイメージを永田に聞かれたウィパーウィーさんは、次のように答えました。
「今日、ひとつのプロジェクトが浮かびました。バンコクの街中の公園でサバイバルキャンプを実施したいです。バンコクの子どもや学生にはサバイバルに対する知識や技術がないと思います。知識や技術で災害時を乗り切るという、D4Dと同じ目的を持つレッドベア・サバイバルキャンプとジョイントしたい。」
D4Dは防災教育のプログラムを持っているので、そのプログラムを普及させる方法としてのレッドベア・サバイバルキャンプとそのシステムはこれからの活動に適しているといえます。
ウィパーウィーさんは、バッチなどのデザインやキャラクターも魅力的なので、レッドベアのグラフィックもタイで使用したいと伝えました。
それに対し、永田からも「是非協力したい!」という返答とともに、オリジナルカラーリングでのバッチ展開などが提案されました。
この対談からは、日本とタイの活動のコラボレーションの可能性、そしてタイにおける新しい防災教育プロジェクト展開への「種」が蒔かれました。
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撮影:辻本しんこ