2015/2/11
イベントレポート
2015年2月5日(木)
+クリエイティブゼミvol.13 「食」編 「神戸発:自分で食べる“食”の勉強をしよう!」第2回を開催しました。
今回は、「食ゼミにあたって考えること」と題して、本ゼミのゼミマスターを務める米山雅彦シェフ自身から、本ゼミの趣旨や、各ゲストをお招きした理由をお話しいただきました。
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KIITOがオープンする前の2011~2012年に、自分の興味ある方を招いて、講演もしくは対談形式で今回同様のゼミを開催した。その際は人物に注目して、いつもお付き合いしている農家、酪農家、シェフなどに来てもらったが、今回は、人ではなく素材に寄ろうと考えた。
食べ物を食べているのに身体の具合が悪くなることがあるという現状は、第一問題だと思う。外食が続いたから体調が悪い・太った、なんて、わりあいよく言われる言葉だが、プロが作ってお金出して食べている食事で体調が悪くなるなんて、何か違うよな、というのがベースにある。
正直、資本主義の中で、食でいう理想的なものを求めるのは難しいと思う。安くておいしいものはあるかもしれないが、安くていいものはなくて、求め過ぎると、いま社会で起きているような問題が起こってくる。ものづくりには人の手がかかる。その分リスクがある。現状だと、極論かもしれないが、本当に安心してものを食べたいなら、自分で作るしかないのではないか。
経済中心の社会に自分自身も漬かっていて、今、そこから抜け出して、自給自足で生きていくのは難しい。正しいもの・いいものをお金かけてやるのが儲からない現状は、多少は仕方がないと思っているが、でも本当にそうなのか、考えるべきことなのか。それを考えるべき時期だと思う。食べ物は、結局は自分が選んで口に入れている。子どもは親が用意したものを口に入れている。自分たちが何を食べているかを知って、自分で選ぶ基準を作って、バランスをとって正直にやっていくしかないと思う。
第1回「在来種、F1種について」ジョン・ムーア(SEEDS OF LIFE)
ジョンさんのワークショップに行ったのがきっかけ。F1種の何が悪くて、良いところがあるなら何が良いのか、話してもらいたかった。実際はもっと深い話になったが。
仕事で、有機栽培や自然栽培の農家と付き合いがあって、聞くと、小麦はすべてがF1種というわけではないようだが、ある農家は自然栽培で農薬を使っていないが、種はF1種であったりする。
葉っぱに虫がついていたら商品にならない、という農家の話をよく聞く。こっちが変わればあっちが変わる、という単純な問題ではないが、作る側だけが変わってもまったく意味がなくて、消費者側が受け入れるかどうか、という問題もある。
第3回「自然界の中の人と食 ~光の生き物へ、そして人への影響~」宮嶋望(新得共働学舎)
知っている人も多いと思う。特にチーズで知られている。不登校の子供などを受け入れ、一緒に住み込んで畑を作ったり、酪農をしたりなど、仕組みにとても共感した。
ジョンさんの話にも関係するが、プラスチック、鉄、コンクリートの世界で、精神的に健康な生活が送れるわけがない、というような、食べ物の話だけでなく、自然界の中の人としての生き方のような話。
パン屋の仕事は、早い子は電車が動いていない12時、3時の出勤が必要になり、徒歩や自転車で通える距離に住むしかない。店が都会にあるので、地方から出てきた子は、そんな環境の中で心身のバランスを崩すこともあった。それから、全員は難しいが、工程や製法を見直して、電車が動く6時からでも職人の仕事ができるように変えたりもした。そういったことを考えていた時期に、ちょうど宮嶋さんの本を読んだ。本のなかでは、思想的な話もあるが、それを理論的に実証されている。
宮嶋さんがどういう方か、共働学舎がどういうところかというところを含めてお話ししてもらいたいと思っている。
第4回「おおや高原有機野菜の現状」金谷智之(おおや高原有機野菜生産者)
商業的に有機栽培をやっていて、コープにも納めている方。商業的というと冷たく聞こえるかもしれないが、ビジネス的には正しいと思う。農家自体がブランドになっているような、レストランに納めているような農家とは違ったやり方を、思いがあってやっている方。
第5回「食品添加物について考える」室町秀夫(MCフードスペシャリティーズ・パン資材事業部)
本当に無添加のものって世の中にどれくらいあるのだろう?と思う。これは食べない方がいい、と具体的に提示するなど、講演を仕事にしている人もいるが、できれば現場の人で、現状、実際に食べものを流通させるためには必要なものだ、ということについてなど、できるだけ中立に話してくれる人に来てもらいたいと思い、仕事で縁のある、不活性の天然酵母を作っている会社の方に依頼した。
第6回「醤油についてのお話と手作り醤油ワークショップ」浄慶拓志(大徳醤油株式会社)
いまは、醤油の樽自体がなくなって、樽を作る職人もいなくなっているという話を聞く。いま、ちゃんと発酵した醤油を目にする機会は少ないと思う。醤油ができる過程の話や、何が本来のものなのか、ということも含めて、ワークショップも体験しながら聞きたい。
第7回「野菜工場について」
有機野菜栽培と工場野菜生産は兵庫県内の同じ町の中で行われていて、スーパーには同じところに並べて売られていたりする。興味深い状況だと思う。農薬をたくさん使った土で育てている野菜より、土を使わないできれいに育てている野菜のほうが衛生的でいいのかも、また、世界的に進む食糧不足対策として、世界に流通させるための方法、という話もある。生産会社の人か、コンサル会社の人か、話してくれる方を調整中。
第8回「屠殺について」都倉敏明(兵庫県健康福祉部健康局生活衛生課)
生活の中で、自分自身が、血が通っているものをいただいているのに、屠殺のことを知らない。単純に、親として、子どもには伝えるべきだと思っている。
今回は、映像を持ってきてもらい、お話しに来てもらうが、団体であれば現地見学できる。見学を受け入れているのは、きちんと衛生的な環境で安全に処理していることを知ってもらうためだそう。仕事では肉を扱わないが、スタッフを連れて見学にも行ったことがあり、いい経験だった。
第9回「塩について」赤穂市立海洋科学館・塩の国
塩は、パン屋としては一番よく使う素材だが、自分で作ったことがない。塩にはいろいろな作り方があって、赤穂では昔の製法を知る職人さんがご健在で話が聞けると知ったので、昔の製法の話やミニワークショップを受けて、昔と今の違いを知ることができればと思っている。
第10回「楽しく食べて健康になりましょう! ~糖質制限食のススメ~」山田悟(北里大学北里研究所病院 糖尿病センター長)
仕事でお会いしたのがきっかけ。当初ゼミの中で予定していなかったが、どうしてもと入れてもらった。糖尿病対策にはカロリー制限をすべきという考え方が主流だったが、いまは、カロリー制限でなく、糖質自体のカットが大事、オイル類は大丈夫、コレステロール値が高いのは遺伝だ、など、聞いていて驚く話が多い。病院の先生という立場もありながら、啓蒙活動もされている方。
これまで、商品の中で、機能的なものは否定してきたが、アレルギーのことなどを考えていて、自分の中で気持ちが変わってきたときに出会ったのが大きい。
選ばなかったこと
放射能のことは、いろいろ考えて調べもしたが、今の時点では、特定の人を呼んで話してもらうことには自信が持てなかった。今後何らかのかたちで、みんなが持っておかないといけない情報を、きちんと話せる人がいたら、とは思う。
TPPのことも、商売をしている身なので、ずっと気になっている。小麦の値段うんぬんというよりは、品質についてだが、農家によってもいろいろな意見があり、また、TPP自体が進んでいないし、いまの段階では整理がしきれない。TPPが決まってくることによって、価格帯の安い、大量生産されるようなパンの原料がより不透明になっていく可能性はあって、ちゃんと選ばないといけない、ということが出てくるのは確かだと思う。
小麦の栽培(参考)
店のパンは、一部、生産者限定の小麦で作っている。
一つは、減農薬栽培、F1種、十勝の広大な土地で、基本1人作っている。畑の写真を見ると、はたから見ると、まったく気にならないが、ほんの少しだけ雑草が生えている。きれいに作りたい農家にとっては気にくわないこと。職人の感覚としては共感するところ。
もう一つは、自然栽培。計算して収穫に邪魔にならないようにはしているが、小麦畑の中は雑草だらけ。生えたらいけない雑草だけ取って、あとは何もしない。ジョンさんとリンクしているが、「雑草が生えたところに種をまく。なぜなら雑草は抜いても生えていて力強いでしょ。そこにまいたら元気になる」という考え方。普通の栽培方法から自然栽培に変えたら、収穫量が減ったが経費が減り、売上げは減ったけど利益は増えたという。週休二日、雨の日は休み。その代わり、理論はすごく考えられていて、雑草が立たないように、タイミングを見極めて畝を作ったりする。先のことを聞いてもおもしろい。収穫後、緑肥と言って一年畑を休ませるが、緑だけだとつまらないから試しに黄色い花を植えた、なんて言う。このすごさが分かる人があまりいない。世間や消費者がまだ追いついていない、という感覚。
十勝は、土を見るととてもふかふかで、そら肥料いらんわな、と思うくらい。農業に適した特殊な土地で、十勝の農家は全国、北海道の中でも突出して収入が高いくらいで、すべての土地に当てはまるとは思えないが、参考になる。
自分の素直な興味から、勉強したいこと、会いたい人が集まっている。もちろんこのゼミだけですべてが分かるわけじゃない。ゼミを通して、ある角度から、これは正しい・これは排除しよう、という答えは出るかもしれないが、違う角度から見ると答えが違うことになってくると思う。だから、このゼミはレポート提出を課題にして、それを集約することにした。自分なりの関心を深めて、いろんな意見を聞かせてもらいたい。みなさんのレポート、たいへん楽しみにしています。
第3回となる次回は、「自然界の中の人と食 ~光の生き物へ、そして人への影響~」と題した、新得共働学舎・宮嶋望氏によるレクチャーです。
+クリエイティブゼミvol.13 「食」編 「神戸発:自分で食べる“食”の勉強をしよう!」
http://kiito.jp/schedule/seminar/article/10640/