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2016/3/15

イベントレポート

+クリエイティブ・ラボ キックオフ連続トークセッション 「新しいパンのはなし」第2回レポート

2016年3月8日(火)

+クリエイティブ・ラボ「新しいパンのはなし」の第2回を開催しました。ゲストは建築家の高橋真人さんと神戸のパン屋「ケルン」オーナーシェフの壷井豪さんです。はじめに高橋さんから建築の視点から新しいパンのはなしをしていただき、その後、壷井さんを交えトークセッション、会場からの質問を行いました。

 
高橋さん自己紹介
私は7年間スイスのバーゼルというところでヘルツォーク&ドムーロンという建築事務所で働いていました。北京オリンピックのスタジアム、通称「鳥の巣」を設計したところです。7年後に日本に戻り、今は東京をベースに活動し、建築設計を中心にしていますが、建築だけでなく、スケールを広げ、都市デザイン、都市開発のコンサルティングなどもしています。東京で開催されているAny Tokyo、Art&Designのパートナーとしてディレクションなどもお手伝いさせていただいています。小さいものではドアストッパーをデザインしたり、大きなものではスペイン、マドリッドの都市計画などもしています。

建築のはなし
スペインのサラゴサ市にあるゴヤ生誕の地のゴヤ作品を展示する美術館を設計しました。既存の建物の2棟を改築するプロジェクトです。ここにしかない空間、ここでしかできないことを目指し、ゴヤの人生にちなんだような場として、ゴヤが初めて教鞭をとった部屋、耳が聞こえなくなってから住んだ家などを再現するような空間をつくり、来場者がゴヤの人生を追体験できるようなものを展示とは別につくりました。
メキシコのグラダラ市の美術館は、絶壁のある特殊な敷地で、公園の中にあります。ギャラリーの箱状の空間を円形に集め、地上から10m浮かせ、それを美術館にしています。1つの大きな木をイメージしており、箱状の空間の下を通り、メキシコの強い日差しを避けながら会話をするなど、人の集える場になればと設計しています。
線を描いたり、絵を描いたりするのとは別に、国内外の都市に対して、低炭素など持続可能なまちを考える、コンサルティングもしています。経済産業省から話をいただき、海外で環境拝領型のエコシティをつくる計画を進めています。2012年のAPECから専門員として、環太平洋地域のまち、振興開発地域を回っています。日本はエコな都市に関して知恵があるので、その見識を発達させていき、炭素を出さないまちを一緒に考えていくための意見交換をしています。2014年からはJICAからの依頼で南アフリカのケープタウンで環境に配慮したガイドラインづくりも進めています。ここまでが建築の話です。

 
3つの視点
私がこのような取り組みをする上で気を付けているのは、3つの視点を持つということです。1つめは空間、建築、パンといった小さい世界、もっと小さくても良いかもしれません。小さいものから大きなものまで、ズームイン、ズームアウトするような、そういった鳥のような視点ということ。2つめは、過去から未来。何かをつくるときには、正しいものを求めるのではなく、過去を振り返ってみたり、歴史とか伝統とか、そういったものに目を向けることで、新しいアイデアを見つけたりする、タイムトラベラーの視点です。3つめは、自分も反省していますが、ものにばかりとらわれ過ぎてしまい、形とか色とか新しいものだけを求めることではなく、実際の空間で、人々がどんな気持ちか、幸福な思いをしているか、どんな気持ちを求めてそこに行くのか、もの、目に見えないこと、経験みたいなものもデザインできたらいいと思って設計しています。

新しいパンの考え方
私はカレーパンが好きですが、そういったパン自体を開発する、新規商品の開発といった話と、パンだけでなくパンをどう売るのか、どういった店舗で売れるのか、どこで食べられるのか、パン屋さんの仕事のあり方、日常の中でパンがどのように消費されるのか、を俯瞰して見ます。もっと大きく見ると神戸全体の話になります。リサーチによると神戸の皆さんは日本で1番パンを購入しているようです。私も神戸と聞くと街のイメージとしてパンが思い浮かびます。まちづくりの観点からパンを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。公園のようなパン屋さん、みんなが遊べるパン屋さん…。産業や住む人のライフスタイルのようなものを改めて考えるにも良いかもしれません。
新しいパンを考える上で6つの質問です。参加されている皆さんは、こんなパンがあったらいい、こんなパンをつくってみたいなど発見を求めていると思います。そもそも自分のためにつくるのか、家族のためにつくるのか、恋人のためにつくるのか、whyの部分。who、そして誰がつくるか、一般的にパン屋さんがつくると思いますが、趣味で自宅でつくることも考えられます。どんなパン?どんなパン屋さん?どんなまち?whatの話です。whenは、今できる技術なのか、明日つくるのか、10年後につくるのか、10年後神戸はこうなってほしいなど…。where、どこで、家、パン屋さん、公園、バーベキュー。How、どのように、手段、技術…。この6つの枠を考えると皆さんの自分なりのパンの着想になるのではないかと思います。

食べるとつくるの関係
パンのはなしの射程距離についてですが、私がはじめに考えていたことは、商品開発の話でいうと、味の部分です。香り、形、感触、色…、こういったものの組み合わせで新しいパンが発見できるのではないか。味、材料は何か?国産小麦、輸入小麦、酵母の発酵過程は?菓子パン?パン中身は?食べるまでの量は?どうか。手に持った感触、口に入れたときの感触、噛んだ時の感触、舌に接したときの感触、そういったところをエンジニアリングしてみても新しい発想になるのではないか。心理的な部分では色もあります。環境心理のように青は食欲減退、暖色系は食欲を掻き立てます。プレゼンテーションとして、人の興味をそそる色付けをデザインしてもおもしろいのではないか。京都にある妙喜庵にある茶室は、躙り口(にじりぐち)という入口があり、内部空間は2畳と狭いです。入口はかがまなければ入れない構造になっており、しゃがんで入ることで、たった2畳の空間が少し広く感じたりします。そのような人間感覚は心理的であったり、相対的であったりします。パンのおいしさも同じ切り口で考えると面白いと思います。パンを取り囲む環境も重要です。パンのように小さなものでも大きな問題を考える切り口にもなります。パンを使ってまちを活性化させることはできないか、産業振興、地域格差、インバウンド…。パンの文化について現地を見に行っても面白いのではないか。ある程度の仮説を持ってまちに出てみることで発見もあると思います。まちに出て、観察してみる、時間帯、客層などいろいろあると思います。アイデアが出てきたら、試作、プロトタイプをつくり、つくりながら考えることで、さらに新しいパンにたどりつけるのでは。つくる人がこんなパンをつくりたいというよりは、社会が何を求めているのか、自分の周りの人が何を欲しがっているのか、食べる人の視点から、食べるとつくるの関係をデザインしてみてはどうでしょうか。

 
トークセッション・質疑
高橋さん:私はパンを買うときに、「このパンが欲しい」と目的をもって買に行きます。カレーパンしか買いませんが(笑)。こんな味のカレーパンを求めて買いますが、そこに「?」はいらないことが多いです。しかし、建築好きの私は、旅行などすると、まさに「?」を求めています。どんな雑誌にも載っている観光名所でも行かないと分からない情報がたくさんあり、初めてそこで体験して、考えます。なんでこんなデザインをしているのでだろうか。この壁の質感はなんだ…など、分からないことがあります。そこから価値が生まれてくると思います。「?」の発見がなければ、旅もしないし、食も楽しくありません。「?」があることで発展してきたと思います。
壷井さん:私も同じく常に「?」を感じています。お店でお客さんがパンを購入する様子や、パンづくりの際に感じる「?」を生かすことを大切にしています。このちょっとした違和感が大事だと思います。
高橋さん:違和感は大きすぎてもダメかもしれませんね。ちょっとした余地だと思います。学生の時に建築雑誌などを見て、この建築かっこいい、これはダサい、と感じていたが、ある程度建築を学んでいくと、これはダサいのか?なんなのだ?とフラットに見えるようになります。このような余地のある新しいパンができると良いと思います。

会場:壷井さんがパンをつくる際の発想やインスピレーションのもとは?
壷井さん:最近はいろいろ考え方が変化している部分がありますが、一人で食べるのか、家族で食べるのか、翌日もおいしく食べられるようにするのか…、パンの焼き加減、袋へ入れるタイミング、材料など、食べている状態を常に考えています。
高橋さん:パンの話を事前に聞いて、建築は簡単だと思いました。なぜならば、建築家は設計をして、大規模なものは設備や構造、エンジニアリングに関しては、外注の専門家のエキスパートに聞きます。壷井さんは勉強し、テクニカルな部分も自分で行い、全てを一人でやっている職能は今の時代はないのではと思いました。頭が下がります。
壷井さん:自己満足のところがあると思います。職人、シェフはある程度のエゴがあって、パン作りは大変であるが、満たされる部分があります。海外では、職業訓練学校があり、若い年代から職業に対するプライドを高めて大人になっていきます。誰も仕事に対して恥じていません。日本はその部分が欠如しているように感じます。

会場:古いからいいという建築もあると思いますが、新しいものをつくる際に時間を意識して、10年後、50年後の姿をイメージしますか。
高橋さん:基本はそのような感覚でつくっています。時間とともに変わっていくことは、記憶の集積だと思います。建築家が完成させない領域を残しておいた方が幸せになる人が増えるのではないかと私は思っています。

会場:設計図をつくる際に、自分のスタイルや個性よりむしろ場所から自然とデザインが生まれるとお話しされていました。ヨーロッパの方が活躍される中で、日本人として現地を理解するには、どうしていたのですか。
高橋さん:そのことが、私ははじめ、コンプレックスでした。言葉ができないし、歴史も日本史のように学んでいません。私たちは現地の建築家やデザイナーに比べて見えている世界は狭いと思っていましたが、むしろ現地の人が見えていないところをフラットに見られることもあります。言語や現地でしか学べない教養みたいなところがあり、好奇心を持って見ることで、現地の人が見えない情報が見えてくることがあります。そのことがデザインやアイデアに光るものを与えてくれます。そんなことを発見しました。海外で戦っていくためにはそうならざるを得なかったこともありますが、五感で感じられる情報にウエイトをおいて、そこの場所らしさを見つけようとしてきたと思います。

永田:前回同様にかなり揺さぶられる刺激的なお話でした。パンはとても身近なもので、とても良いテーマだと思います。まちとか地域に広がった話を聞き、“パン”はさまざまな可能性に満ち溢れていると感じました。

次回のゲストは、IDEO Tokyoのディレクターであり、プロダクトデザイナーの石川俊祐さんと、AnyTokyoのプロデューサー・田中雅人さんのお2人です。どんな話が飛び出すのか楽しみです。

+クリエイティブ・ラボ キックオフ連続トークセッション 「新しいパンのはなし」
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