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2016/4/25

イベントレポート

Meets+DESIGN はじめてあじわうときのように レポート

2016年3月27日(日)

異分野のクリエイター同士の出会いにより演出された空間で、彼らの活動に身近に触れてもらう企画「Meets+DESIGN」。
今回のコラボレーションは、神戸の創作フレンチ・アノニムのシェフ加古拓央さんと、植物図鑑「微花」(かすか)を発行する2人組・石躍凌摩さん+西田有輝さん。
「微花」では石躍さんは文章、西田さんはデザインを担当。ともすれば見過ごしてしまいそうな、その名の通り「微か」な植物たちを紹介する図鑑を制作しています。
加古さんの「言葉から料理を作ってみたい」という思いから、今回の企画ははじまりました。

薄暗い照明の中、暗幕の奥の明かりが灯り、石躍さんが登場。彼の朗読から会は幕を開けます。

「0皿目」は純水で作られた「氷」。参加者は目を閉じ、朗読を聞きながら、氷を口に含みます。

電球の明かりが灯り、ここからメインの料理がスタート。参加者は皿を手に取り、思い思いの場所で料理を味わいます。
一皿目のタイトルは「タコ/木の芽/ビーツ」。
タコを溶かしたゼラチンのスープに、スポンジのような食感のパンを添えたもの。食べた後、紙の皿に水彩画のような美しい模様が残ります。

二皿目の料理は「シリアル/スプラウト」。豆苗や小松菜などが雑草のように盛られ、そこに麦やゴマ、鱒の卵など、さまざまな食感が一度に口の中で感じられる、不思議な味わいです。
その後、三皿目「焼き畑/青豆」、四皿目「経産牛/ヒネ芋/落葉」と続きます。「焼き畑/青豆」は「焼き畑小麦」と呼ばれる小麦を使った薄いクレープのようなもの。「経産牛/ヒネ芋/落葉」は、経産牛(出産後の牛)のホホ肉を赤ワインや味噌で煮込んだもの。ルッコラの葉にビオラの花、うずらの黄が美しい料理です。

今回のメニューは、加古シェフが石躍さんが書いたテキストを読み、そこから着想を得て創作したもの。

撮影:西田有輝

目で、舌で料理を味わった後、それを言葉にするワークの時間に入ります。
参加者は3名ずつ、全部で10のグループに分かれ、それぞれ一皿目~五皿目を担当します。ワークは2種類あり、一つはAからZまでの頭文字を使い、その料理に関連した27個の言葉を考えるワーク。たとえば、一皿目「タコ/木の芽/ビーツ」なら
A…あまい B…ビビッドな色 C…ちょうどよい苦み
といったように、食べた時に感じたこと、そこから連想したこと、印象などを言葉にしていきます。
もう一つのワークは、同じように料理を食べて感じたことを、しりとり形式で、最後は「ん」で終わるよう、27個の言葉を繋いでいきます。例えば、
「みどりの」→「のはらみたい」→「いかではない」…「たりないよ」→「よかん」
といったように。
ヒントがほしい時には、本を開いてそこから言葉を拾ってもOK。セレクトされた食にまつわる本や漫画を参考にしつつ、言葉を連想していきます。

 

撮影:西田有輝

グループワークが終わったら、そこからは一人で言葉を紡ぐ時間です。3人で話し合ったことや本で見つけた言葉を思い出しながら、料理を味わって浮かんできた感覚を、今度は自分と静かに向き合いながら、自由に紙に書いていきます。
この「AtoZ」と「しりとり」、一人で紡いだ言葉は、微花がデザインした冊子となり、後日参加者の皆さんの元に届きます。

最後は加古シェフと微花の石躍さんと西田さん、空間構成担当の姉崎さん・時本さんも加わりトークを行いました。一部をここに採録します。

石躍:「はじめてあじわうときのように」の企画は、加古さんの「テキストから料理を作りたい」というお話から始まったんですよね。なぜそうお考えになったんですか?

加古:仕事で料理をしていると、レシピをアレンジしたり、今までの経験から料理が生まれたり、「自分の料理を作っている」というよりも「パッチワークしている」という感覚。時々、自由な時間に本を読んでいると自然とアイデアが湧き上がってくる時があって、そんな時は自分が料理を作っているという感覚になる。既成の言葉、町にあふれている言葉じゃなく、イベントのために作られた言葉で作ってみたいと思いました。
経験を積めば積むほど、「初めてやること」は必然的に少なくなってきます。石躍さんの文章を読んで、「この人の書く文章なら、今までやったことのあることに行き着くはずがない」と思いました。初めて読むリズムや文体にすごく引き込まれて、その言葉で料理を生むことができたら、自分がまた大きくなれるのではと思いました。

石躍:空間構成をお願いした姉崎さんと時本さんは、僕らのトークイベントに来てくださったお客さんでした。

姉崎:最初に今回のイベントのチラシの石躍さんの言葉を読んで、どんな空間がふさわしいかを考えました。時本さんと話をする中で、その中にあった「あじわうことをあじわう」という言葉、それを改めてするためには、非日常性のある場所になればと考えました。

石躍:一か月ほど後に皆さんのお家に「図鑑」が届きます。その図鑑は、皆さんが今日のあじわいを少しでも思い出せるようなものであればと思っています。図鑑というのは一般的には公に見せるものですが、今回の図鑑は基本的には自分だけが見るもの。自分のために、自分で図鑑を作っている。ある意味日記のようですが、いろんな人の手が加わったという意味で、編集というプロセスも踏んでいる。

西田:今日「言葉を出さなければいけない」という課題があって、それを前提にものを食べた時、いつもと違う味覚が働いていたと思う。そのチャンネルをまた思い出すことができたら、今まで食べていたものも違う形であじわうことができるかもしれない。そんな、これからの日常に変化をもたらすようなイベントにしたかった。

石躍:最初に氷を食べながら朗読を聞いて、そのまま飲み下してもらうというアイデアの参考にしたのは、どこかの民族で、トーラという法律を書いた石板に蜜を塗って目隠しして舐めるというもの。それがすごく効くらしい。僕らは僕らの尺度でそんなもの意味がないと思ってしまいますけど、何か法を犯そうとした時にふとその蜜の味がしたり、歯止めになるらしいんです。
僕らは食べるとか、読むとか、分けすぎているんじゃないかと思います。今回はそれを繋げてみようと思いました。

西田:石躍が文章を書くということは、世界を「読んで」、それを翻訳して文章にするということ。その文章を今度は加古さんが読んで、つまり「食べて」、体に取り入れて、また加古さんの言語で翻訳をする。そうして出てきた、ある種テキストのようなものが料理。その料理を今日、皆さんが召し上がって、また文字に戻す。その流れをやりたかった。

加古:石躍さんの文章、難しかったです。何度も黙読だけじゃなく、声に出して読みました。そうすることによって、少しずついろんなことが引っかかったり、飛び出してきたりした結果、料理にすることができたかなと思います。

最後は石躍さんが今日の料理の元になったテキストを朗読して、イベントは終了しました。
普段何気なく行っている「あじわう」という行為を、言葉という一見離れた文脈から捉え直す試み。このイベントが参加者の皆さんにとって、「あじわう」ことについて日々、発見していくきっかけになればと思います。

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