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2016/11/27

イベントレポート

KOBE パントーク2016 レポート

2016年10月27日(木)
「KOBEパンのまち散歩」のオープニングイベントとして、昨年に引き続き「KOBEパントーク2016」を開催しました。今年のテーマは「珈琲・紅茶」です。珈琲店の上野真人氏(LANDMADE)、紅茶店の大西泰宏氏(ウーフ)、パン屋の西川功晃氏(サ・マーシュ)、壷井豪氏(ケルン)、井筒大輔氏(イスズベーカリ―)をゲストに招き、珈琲や紅茶に合うパンやパンとの合わせ方について、トークセッションと試食が行いました。

トークセッション
珈琲:上野真人さん(LANDMADE)
朝はパンと珈琲という方も多いのではないでしょうか。パンはとても自由度の高い食べ物だと思います。惣菜もフルーツも挟むことができます。「珈琲に合うパンは?」と聞かれますが、パンに合わせる方が私はやりやすいです。パンの耳の苦味に珈琲の苦味を合わせたり、天然酵母などを使われるパンには、天然酵母の酸味に珈琲の酸味を合わせます。
パンを食べて、珈琲を飲んで、もう一度パンを食べたくなる珈琲がおススメです。最近の良い珈琲は甘味が強いですが、それは化学反応による甘味です。実はパンの甘味とは成分が似通っていいます。珈琲の豆は元々赤い木の実で、成熟度が低いと、果物と同じで渋さが残ってしまいます。どんな珈琲も鮮度が悪くなると酸化してしい、台無しになってしまいます。甘味のある珈琲の見分け方は、後味があり、変な渋さがなく、酸味が残らないもので、心地よい香ばしさと甘味が長く残ります。
本日準備した珈琲は、ティーバックタイプのものです。好みの濃さで珈琲を入れることができますので、ぜひ試してください。

紅茶:大西泰宏さん(ウーフ)
私は、2002年から紅茶の輸入と販売をしています。まずは私が何をしてきたのかを説明します。高校生の時にTwiningsのティーバックアソートのカラフルさに感動して、勝手に紅茶の道に進むと思っていました。就職活動の際に、まずは一般の会社で社会を学んでから好きなことをしなさいと、親に言われ、3年間一般企業で働いき、やはり紅茶の道を忘れられず、紅茶専門店で働くことになりました。飲食業も初めてで、戸惑いばかりでした。本格的に紅茶の仕事を始めると、年収が半分になり、このままでは生活していけないと思い、3年でやめようと考えていました。そして3年たったとき、すばらしいウーロン茶に出会いました。この茶葉は紅茶発祥でもある福建省の岩茶という岩が育てるお茶でした。飲んだ時に鳥肌が立ち、感激したのが1999年です。
その後、中国に留学し、生産者に会いに行き、産地回りを繰り返し、日本に帰国後2002年にお店をオープンしました。15年目になります。パンには油分が含まれているので、紅茶や珈琲だと、カテキン、カフェインが強めのものを選ぶと良いと思います。
本日はパンの朝食をイメージし、ミルクティーを準備しました。しかも特別なものです。当店のブレンドで、スリランカやインドから輸入し、神戸港でおろされた茶葉で、イングリッシュブレックファーストティをつくりました。また、お水は布引の水の神戸ウォーター、牛乳は北区にある弓削牧場の低温殺菌牛乳を使ったスペシャルなミルクティーです。
まずはパンを食べていただいて、口の中に風味が残っている段階で、ミルクティーを一口飲んでください。そうすると口の中がスッキリして、またパンが食べたくなる、そのペアリングを感じていただきたいと思います。

パン:井筒大輔さん(イスズベーカリー)
イスズベーカリーは三宮、元町間に4店舗あります。そして1946年創業、今年で70年になります。
良いパンってどんなパンでしょうか?それは飲み物無しでも食べることのできるパンだと私は思います。それでは話が終わってしまいますが…(笑)。なぜかというと、パンにも水分が残っていて、口どけが良く、のどごしの良いパンが良いと思います。老化が進んでいるパサついたパンだと、飲み物の力を借りて飲み込まなければいけません。
珈琲・紅茶には、ハード山食が合うと思います。実はうちのお店の定番商品なのですが(笑)。実は私は珈琲があまり飲めません。しかし今日試食でご提供するLANDMADEさんの珈琲は全く渋みがなく、苦味も少なく、甘味のある珈琲でした。とても飲みやすかったです。パンとも合うと思います。
紅茶には思い出があります。幼いころにラジオ体操の帰りに母と喫茶店で飲んだ紅茶です。また祖父の家に行くと、いつも甘い紅茶を出してくれました。祖父はその甘い紅茶にパンを浸して食べていました。行儀が悪いと思われるかもしれませんが、フランスではカフェオレにクロワッサンをつけて食べる文化もあります。皆さんが楽しみたい食べ方で楽しみ方で食べていただければと思います。

パン:壷井豪さん(ケルン)
ケルンも創業70周年です。神戸はパンの文化が古く、老舗も多いです。
珈琲は何か物事を始める時に私は良く飲んでいる気がします。一方、紅茶は何か物事が終わった後に飲みます。
20年以上前になりますが、阪神・淡路大震災の際は、家がつぶれ大変でした。学校が再開ししても学生は2割ほどしか来ていない状況でした。学校などには支援物資がたくさん運び込まれ、紅茶の箱が山のようにありました。お湯を沸かすことができなかったので、なかなか手を付けられていませんでした。
毎日、兄と井戸の水を汲みに3キロの道のりを2往復していました。水が重く、手に豆を作りながら必死に運んでいました。その時に冷たい井戸水にティーバックを入れて、運び終わって疲れたときに紅茶を飲むと、とても落ち着いたことを覚えています。
本日準備したパンは、このように合わせると美味しいのではないかと思い、試行錯誤してつくりました。後ほど試食の際に食べてみてください。

パン:西川功晃さん(サ・マーシュ)
珈琲・紅茶にパンが合うかどうかについて、私は上野さんや大西さんと逆の考え方です。珈琲、紅茶、抹茶、お茶を楽しむ時間について考えたことがあります。どこで楽しむのか…。日本には抹茶があって、和菓子が必ず添えられます。和菓子の世界は抹茶がなければ発展してこなかったと思います。抹茶はあるから、そこに和菓子が存在し、発展しています。そこで感じたのは、お菓子もパンも同じではないかという事です。珈琲も朝食や昼食、夕食の後などさまざまな場面に登場します。
珈琲や紅茶を入れた人の顔が見え、気持ちが伝わる中に、珈琲を飲みながら会話をする、それが本来の楽しみ方ではないでしょうか。そこに添えられるのがパンやお菓子だと思います。場面に合わせて、パンやお菓子が変化し楽しめる、そんなことをイメージして本日のパンをつくってきました。
私は普段からティーバックをいろいろ組み合わせて遊んだりしています。皆さんも珈琲・紅茶に対して遊び心を持っていただければ、合うパンを考えたりと、食と暮らしが楽しくなるのではないでしょうか。

司会:土井茂桂子(KOBEパンのまち散歩 実行委員長、神戸山手短期大学 准教授)
珈琲・紅茶は脇役という話から、飲み物があって、それにパンを合わせていくという話、そのようなさまざまな相乗効果が生活の豊かさを生み出すのではと感じました。嗜好品という感覚でいうと、珈琲・紅茶はそのカテゴリに入りますが、それぞれのものはさまざまな広がりや楽しみがあり、皆様が自由に、それぞれの文化というものをつくっていくのかもしれません。

ゲストからゲストへの質問
「珈琲と合わせるパンづくりで苦労した点は?」
井筒さん:珈琲・紅茶をあまり飲まないので、それぞれのイメージを紙に書きだすところから始めました。珈琲であれば苦い、刺激的、強い…、紅茶は、温かい、優しい、落ち着く…などです。珈琲は少し攻めた食材を使っても大丈夫ではないか。一方紅茶は…という風に考えていきました。

西川さん:珈琲・紅茶のつくり手に失礼がないように、これはぴったりきますね、と上野さん、大西さんに言ってもらいたいと思って、それぞれのパンをつくりました。きっと今回のお客様にも楽しんでいただけると思います。つくっている人がそれの味を一番わかっていると思います。私はパンのことを「この子」と言います。珈琲・紅茶も同じように、自分の入れたものは、自分の分身のようなもの。魂が入っていて、おいしく食べてもらいたいと思っているはずです。

「食パンに会う珈琲・紅茶は?」
上野さん:食べながら飲み、口の中で合わせるもの、食べて珈琲で流すもの、2つあると思います。一緒に食べる時には、味に重なりがあればあるほど、マリアージュが起こりやすいです。一番合わせやすいのは、食パンの耳の部分の甘苦さと珈琲の甘苦さ。食べた後の口をリセットしたいときは苦味の強いものが良いと思います。

大西さん:朝は頭が起きていないのと一緒で、舌も起きていません。なので強いものを飲んだ方が元気になれます。強い珈琲を飲んで、朝シャキッとするのは、カフェインを体内に入れて興奮しているからです。珈琲と紅茶のカフェインの効き方が違うことはご存知でしょうか。珈琲のカフェインは体内に吸収され、興奮作用があります。紅茶の場合は、体内に緩やかに摂取され、リラックス効果があります。
珈琲も紅茶も200gの同じ乾燥状態だと、紅茶の方が実はカフェインが多いです。珈琲は100gで7-8杯しか取れないので、カフェインが濃縮されます。紅茶の場合は、100gで80-90杯取れるので微量になります。
朝目覚めるために、食パンと合わせるなら強めの紅茶、アッサムティとかセイロンティを濃いめに入れてミルクティにするのがおススメです。夜であればストレートティでもカフェインの少ない、アールグレイとなどが良いと思います。

トークの後に、隣の部屋に移動して試食と質疑応答を行いました。質問は参加者の皆さんにふせんに書いて提出してもらいました。

メニュー紹介|
紅茶に合うパン
壷井さん:栗を使用したパンを準備しました。栗は丹波のもので、黒豆の煮豆と求肥(ぎゅうひ)で包んで中に入れています。外はクロワッサンの生地になっており、食感も面白いと思います。
井筒さん:テーマは「紅茶へのやさしさ」です。半円の形をしたソフトなパンにしています。生地にはマカダミアナッツやホワイトチョコレートのチップを練り込んでいます、やさしい甘味を感じていただきたいと思います。
西川さん:三角形の形をしたソフトな食感のブリオッシュです。レモンのジャムを練り込んでいます。ほんのりと香る程度のオレンジピールとカルダモンを入れています。食べ終わった後に感じると思います。

珈琲に合うパン
壷井さん:上にオレンジのリキュールで風味をつけたクロワッサンです。オレンジのペーストを煮詰めてリキュールをつくっているので香りも良いと思います。
井筒さん:珈琲の強い、刺激的なイメージをテーマに棒状のパンをつくりました。紅茶に合うパンのマカダミアナッツに対して、少し癖のあるクルミを使用しています。オレンジピール、シナモンパウダーを生地に練り込み、中にはミルククリームが入っています。
西川さん:フランスの伝統菓子をアレンジし、シンプルにつくりました。オレンジの皮とシナモンでつくったシロップに漬け込んだブリオッシュにチョコレートソースを塗って、栗のペーストを搾り焼き上げました。栗のペーストは特別なもので、スペイン産とチリ産のものを組み合わせています。食感と香りがとても楽しめると思います。

質疑応答
Q:「パンづくりで考えていることは何ですか?」
A:西川さん:季節などを意識しています。季節の香り、風の音、枯れ葉を踏む音、葉の色、落ち葉を拾ってこんなパンができないかと考えることもあります。自然から感じ取れる様々なものを取り入れています。
パン職人ではない別の職人とコラボレーションすることで、新たな食材との出会いや新たな使い方を発見できます。皆さんに合ったパンをどれだけ提供できるかが重要だと思います。

Q:「食パンの山食と角食の違いは何ですか?」
A:井筒さん:食パンは生地を型に入れて焼くのですが、山食と角食の違いは、その型に蓋をするか、しないのかです。蓋をする角食は、生地が伸びず詰まるので、サンドイッチなどに合います。一方山食は蓋をせずに焼き上げるので、生地が自由に伸びます。生地の中の気泡も大きいです。角食と比べるとライトな食感です。

Q:「紅茶を入れる際、器などで味は変化しますか?」
A:大西さん:とても影響があります。紅茶の赤色はポリフェノールが含まれており、カテキンの一種であるタンニンという渋みの成分があります。このタンニンがステンレス製のものを嫌い、合わせると紅茶が不味くなってしまいます。おいしく紅茶を飲むには、陶器のものが良いです。また、紅茶の出来上がりの温度をできるだけ高くすることで、香りがより引き立ちます。さらに空気の入ったお湯を使って、勢いよく注ぐことで、ふわふわと茶葉が回る現象が起きます。それをするかしないかで味が大きく変わります。

Q:「珈琲が苦手で、飲むと胃がムカムカするのですが、自分に合う珈琲を見つけることができるでしょうか。」
A:上野さん:原材料が酸化していると、胃がムカムカする可能性があります。焙煎でしっかり豆に火を入れ、ただ黒く焼くのではなく、中で無理なく火を入れている豆であれば、胃のムカムカは少ないと思います。

珈琲・紅茶をテーマとしたパントークが終了しました。それぞれの専門の職人からの考えや方法を聞き、また試食を通して体験できる貴重な機会でした。お客さんもトークに試食ととても楽しんでいる様子でした。
11月1日からは「KOBEパンのまち散歩」が始まります。期間中の1か月間に、中央区内のパン屋さんを巡り、様々なパンと出会っていただきたいと思います。また様々なイベントも開催されますので、そちらも楽しんでいただければと思います。今回から特設のウェブサイトも立ち上がり、フェイスブックやインスタグラムなどでも、様々な情報を随時アップしていきますので、ぜひご覧ください。

KOBE パントーク20162016
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