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2017/5/8

イベントレポート

【こころのアート展 in しあわせの村 2016 KIITO巡回展】OPENING EVENTレポート

2017年4月26日(水)

神戸市の総合福祉ゾーンしあわせの村では、障がいのある人たちの創作活動を支援し、その表現の素晴らしさを広く知っていただくための展覧会「こころのアート展」が毎年開催されています。今回、同展の巡回展をKIITOにて開催。会場を移したことで、KIITOの空間でしかできない新たな会場構成や展示什器を提案し展示を行いました。

この展示のオープニングイベントとして、出展作家である新井咲さんとそのご家族によるアンサンブルの演奏会、そして障がいのある人との協働の場を多様なかたちでつくりだしているSLOW LABELディレクター・栗栖良依さんを招いてのトークを開催しました。

【第1部】新井咲+アンサンブルピアチューレによる演奏会

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本展の出展作家として、『旅シリーズ』と題した10点の油絵の作品と、その作品それぞれにひもづいた詩の作品を出展されている新井さん。絵や詩の制作活動と同様に、長年続けているというピアノの演奏を、音楽のお仕事をされているというご家族のみなさんと一緒に、披露してくださいました。

ドラムの演奏を担当されている新井さんのお父様からは、新井さんの持つイメージが絵や音楽に落とし込まれていく過程や、すべての創作活動の起点になっているという、新井さんの好きな映画の風景やストーリーについてのお話をいただき、会場にいる参加者のみなさんが、新井さんの世界観とより深く向き合うことができました。

演奏の最後には、新井さんご自身が作詞されたという、『出会い』という曲を披露していただきました。これまでに出会ったたくさんの人たちへの感謝の気持ちを込めた歌詞が、新井さんの優しい歌声とご家族の演奏にのり、会場中が穏やかであたたかい空気に包まれ、惜しまれながら演奏会は終了となりました。

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【第2部】スローレーベルが創造する未来
アーティストと障がい者が協働する機会をつくり、社会に新しい価値を生み出すさまざまなプロジェクトを手掛ける、「SLOW LABEL」ディレクターの栗栖良依さんにお越しいただき、障がい者のもつ創造性と、社会にもたらすことのできるさまざまな可能性についてお話をいただきました。

○「SLOW LABEL」の立ち上げ
観光と交流の拠点であり、アートセンターとしての側面も持つ「象の鼻テラス」を拠点にした、横浜市の障がい者福祉施設とアーティストを結び付けるプロジェクトに携わったことが「SLOW LABEL」立ち上げのきっかけだそうです。そこで、栗栖さんはたくさんの障がい者福祉施設のものづくりに出会います。当時、そこで作られた作品たちは、サイズや色が統一された正確なものでは無いことや、障がいがあるため短期間で量産ができないことなどを理由に、福祉事業者には「商品にできるものではない」と評価されていました。

ですが、そこに栗栖さんが派遣したアーティストが入ることで、制作されたものの不揃いさを魅力として引き出したり、障がいがあっても無理なくできるものづくりが提案され、これまでとはまったく違う新しい価値をもった作品が生まれたといいます。

こうして、これまで商品未満だったものをかたちにするブランドとして「SLOW LABEL」が立ち上がりました。立ち上げにあたって着目したのは「スロー」であること。障がい者福祉施設でのものづくりの特徴は、とにかくゆっくり。大量生産、大量消費のなかで成り立っている現在の社会において、「大量生産では実現できない自由なものづくり」が大きな武器になったのではないかとお話をいただきました。

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その後、「SLOW LABEL」の好評を得て、栗栖さんはさまざまなプロジェクトを立ち上げます。障がいのあるなしに関係なく、誰もが気軽に集まり、簡単に楽しくものづくりが体験できる工場「SLOW LABEL THE FACTORY」では、ものづくりの拠点としての機能のほか、障がい者と市民の交流の場としても大きな意味を持っているといいます。
そのほか、障がい者が生きる上での選択肢を増やす学びの場を提供する「SLOW ACADEMY」や、全国の障がい者福祉施設のものづくりの力を生かしたショップ「SLOW LABEL BLUE BIRD COLLECTION」の立ち上げ、福祉作業所のスローな時間を生かし、とにかく手間暇をかけたジェラートを販売する「SLOW GELATO」など、障がいのある方が自分たちのペースを大切にしながらも、社会で活躍できるさまざまな場をつくっています。

○ヨコハマパラトリエンナーレ
「SLOW LABEL」のさまざまな活動を通し、障がいとは何かを新ためて考えたといいます。障がい者の多くは、どこか欠落した部分はあるかもしれないけど、それぞれに突出した能力や感覚を持っている。栗栖さんは、そういった人々の魅力を発信し、人や社会を巻き込む発展型進行型フェスティバルとして、2014年に「ヨコハマパラトリエンナーレ」を立ち上げます。
このトリエンナーレでは、ただ障がいのある方のアート作品を集めるのではなく、プロのアーティストとのコラボによって新しい芸術表現を見出したり、社会に何か還元したりすることに挑戦しています。
また、このイベントは、2020年までの3回限定。それは、いつまでも「パラ」でいてはいけないという想いからだそうです。2020年以降からは、「ヨコハマトリエンナーレ」に障がいを持つ方が普通に出展できるような社会になることを目指しているのだそうです。

このパラトリエンナーレで、栗栖さんたちはパフォーミングアーツにも取り組みはじめますが、その運営を通し、さまざまな課題と出会いました。
・情報のハードル
 メールでの連絡が取りにくい。FAXやプリントの配布の方が圧倒的に有効である。
・物理的ハードル
 障がいの程度によっては、介助がなくてはひとりで移動することができない。
・精神的なハードル
 自分にはできない/うちの子にはできないという思い込みをしている。
常に人に迷惑かけるかもしれないという不安を抱えている。
この課題を解決するため環境を整えないことには、表現者の人口が増えず、高い質の作品はつくれないと考え、アクセシビリティの整備に取り掛かったそうです。

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〇「SLOW MOVMENT」
アクセシビリティを整えるため、栗栖さんはそれを支える人材の育成をはじめます。
【アクセスコーディネーター】
舞台に上がるまでのサポートを行う人。障がいのある方が集中して練習ができる環境を整えたり、連絡手段を障がいによってカスタマイズ(手話・展示)することができる。
【アカンパニスト】舞台の上でサポートを行いながら一緒に体を動かして表現をする人。

そして、障がいを持つパフォーマーと、それを支える人材が協働し、さまざまな公演を成功させていきます。そして、2016年には、障がいのあるダンサーの発掘や育成の拠点施設として、新豊洲に「ブリリアランニングスタジアム」を立ち上げます。
ここでは新たにエアリアルという空中パフォーマンスのための設備が取り入れられ、パフォーマンスとしてはもちろん、心と体を鍛えるトレーニングとしてとても有効に機能しているのだそうです。
第1回目のパラトリエンナーレから参加している障がいのあるパフォーマーたちは、現在このエアリアルをはじめ、積極的に新しい技術を取り入れ、表現を続けています。

SLOW MOVEMENT -The Eternal Symphony- 2nd mov.(速報版)
SLOW MOVEMENT – The Eternal Symphony – 1st mov. PLAYERS YOKOHAMAver.
SLOW MOVEMENT -The Eternal Symphony 1st mov.- AOYAMA, 2015

人のできること、できないことは、障がいのあるなしばかりで判断するべきではないと、栗栖さんはいいます。誰かができないことを、自分がどのように補っていくかを考える行為は、社会生活の中でお互いに役立てていくことができます。これからも、障がいのある人とない人が一緒に作品をつくり、より安全に、より質の高いことにチャレンジしていきたいと語っていただきました。
そしていずれ、個の相互補完によって「障がい者」というコトバが無くなる社会にしたいといいます。人材、技術を互いに共有し、多様な人々を受け入れ、補い合える社会にするために、SLOW LABELの活動をこれからも続けていくとお話をいただきました。

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最後に会場から質問を受け、そのまま同会場で懇親会を行いました。会場内では参加者の福祉事業者やデザイナー、アーティストが交流し、栗栖さんのお話をきっかけに、また次につながる新しい出会いが生まれたようでした。

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