2021/7/19
イベントレポート
去る5月19日(水)、朴徹雄さん(ゲストハウス萬家)と飛田敦子さん(認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸)をゲストにお招きし、「「共生」の場と機会を作ること、支援すること──社会貢献活動プラットフォーム 社会活動・地域活動についてのリレートーク 第1回」を開催しました。
このリレートークは、今年度夏から当センター3階に「社会貢献活動プラットフォーム」が設けられることを受けて、社会活動・地域活動のプレーヤーを招き、活動からの学びや課題を共有し、社会活動・地域活動に興味・関心を持つ方々の輪を広げることを目指して開催されるものです。先立って、「相談業務」が始まっており、担当アドバイザーである田村太郎さんがモデレーターを務めます。
第1回は、灘区でゲストハウスを営み、多様な背景の人たちが垣根なく行き交い、交流する場や機会を作っている朴徹雄さんと、多様な人たちが集い、新たな活力を生み出していく「居場所作り」を支援するをゲストにお招きし、活動する側、支援する側、それぞれの立場からお話を伺いました。
お三方は、関西の若手社会起業家の登竜門と言われている「社会起業家のためのビジネスプランコンペ「edge」」をきっかけに相識の間柄にあるとのことで、それぞれの立場から「共生社会」、あるいは「居場所」を作ることに尽力されてきました。最初に、朴さんと飛田さんのこれまでと現在地について、お話をいただきました。
韓国から日本、そしてゲストハウスへ
生まれ育ちは韓国のソウルで、大学までソウルで過ごしました。日本語を勉強していて、ワーキングホリデーで日本で働きたいと思って日本に訪れ、その後、東京で就職活動をして、メーカーへ入社。4年ほど勤務しました。その間も自分がやるべきことは何だろうといつも真剣に考えていて、学生の時に日韓学生交流会の活動をしていたこともあって、色々な人が集まって交流するような場所、機会を作りたいと思うようになりました。そこで、今度は品川のゲストハウスで半年ほど修行の期間として住み込みで働くことになりました。それをきっかけにゲストハウスをしようと決めたわけです。
ゲストハウスを営む方はバックパッカーのような旅が好きという方が多いのですが、私の場合は交流の場所、みんなが友達になる空間を作りたいと考えて、ゲストハウスに行き着きました。
ゲストと地域をつなぐ
修行をしていた品川のゲストハウスのコンセプトが「地域に根ざした宿」というもので、地域を巻き込んで、地域を楽しんでもらう場所でした。私も、せっかく日本を訪れるのだから、観光だけではなくて、地域の方々と交流ができれば、お互いに良い印象が残るし、その人に再び会いに訪れる、そういう循環が生まれたら良いと思って、地域密着で宿を営んでみることに決めました。食べたり・飲んだり・買い物したり・遊んだりするのは既にある地域の環境を活かしてもらって、ゲストが色々なつながりを得るお手伝いをするというわけです。
それを実現させる条件として、①顔が見える個人商店があること、②外国人を受け入れる土壌があること、③街の盛り上げ役がいること、④観光地ではないこと、が重要なポイントになったと思います。最初に水道筋商店街に来た時には、直感的にここがいいと感じたのですが、後から考えると、まさにこの条件にピッタリの場所だったと感じています。
地元の人になる・みんなで作る
ただ、縁もゆかりもない場所だったので、地域に溶け込むために地元の人になろうと思いました。商店街の喫茶店で働いて、仕事の後は地域のイベントの手伝いをして、徐々に地域の人の信頼を得て、地域の活動の運営にも携わるようになりました。2年ほどたって物件が見つかり、地域の方の協力もあって、そこを借りられることになりました。もともと診療所だった物件で、リノベーションの際も、地域の方と一緒にDIYで宿を作り上げました。
世界の旅人と地域をつなぐことを宿の理念としていて、これが多文化共生社会の実現につながると思っています。また、ゲストに地域に出て楽しんでもらえるように、色々な工夫を試みています。嬉しいことに、ゲストとして訪れて、その後、街を気に入って移住する人も現れるようになりました。地域の方が、ゲストに良い経験を与えてくださったおかげだと思っています。
たくさんの人と作る「萬家(MAYA)」として定着しつつあたところでの新型コロナウイルスの流行。悩みもありますが、今日はみなさんとお話しして、楽しいことが見いだせればと思っています。
朴さんの活動紹介につきましては、こちらもご覧ください。
飛田敦子さん
阪神・淡路大震災の経験と、旅から得た活動の原点
私は神戸市出身で灘区の山の手で育ちました。中学生の時に阪神・淡路大震災を経験して、山手は被害が少なかったのですが、直後に高校へ進学して、校舎が海側にあって被害が大きく、家族を亡くしている同級生もいるというギャップに大きな衝撃を受けました。大学時代には、私もバックパッカーとして旅をしていたのですが、長期留学先のスウェーデンで若い人たちが積極的に何らかの活動に参加しているのを見て、だから民主的で政治参加が盛んと言われるのか、という印象を受けました。また、タンザニアにも滞在したことがあって、現地でマラリアに感染して入院する経験をしました。私はすぐに回復したのですが、隣の子どもは亡くなってしまって、不平等の存在を身をもって体験しました。こういう経験をして、これから働こうと思ったときに、見つけたのがNPOのCS神戸の求人でした。当時のNPOでは珍しい月給制での募集でした。それにも惹かれて入職し、現在に至ります。CS神戸を立ち上げた中村順子さんは神戸の市民活動を切り開いてきたリーダーのひとりです。中村さんが理事長で、その下で現在、事務局長という立場にあります。
朴さんには2016年のedgeでメンターを務めた際に出会ったのですが、印象が鮮烈で、まず韓国から水道筋ということにビックリしましたが、彼なら絶対にプランを実現させると確信してメンターを引き受けました。開業までの2年間の紆余曲折も目の当たりにしていたので、オープン時に沢山の方が集まっているのを見て感慨もひとしおでした。
CS神戸の活動について
CS神戸は阪神淡路大震災をきっかけに始まりました。アクションする人が増えてほしいという理念が私たちの活動の軸となっています。CS神戸の活動拠点は神戸市内に6カ所あって、商業施設や公共施設内でのコミュニティスペース運営に加えて、2020年には新たに灘区の公園内に自主事業として地域共生拠点を設けました。グランドオープンの日に緊急事態宣言という逆風の中の船出でしたが、地域のプログラム作り、企業との協働など、活動も軌道に乗りつつあります。
アクションする人を増やす
CS神戸の活動目的の第一はアクションする人を増やすこと。ちょっと立ち寄ってもらうことから始まって、活動に関わり、仲間ができて、ご自身でも動くようになり、組織を作って自走する、そこまでをフォローしています。例年60団体、600名ほどの方が新たに活動を始められるのですが、2020年は思ったより減少がなく、コロナだから何かしたいという方も増えました。近年は特に、居場所づくりに力を入れています。二世帯住宅の1階、お寺の本堂、朝の高齢者施設、社員食堂、使わないガレージ、薬局など、空いているところがあれば講座を開設できるようにお願いして活動をしています。
居場所でその人がどう変わったか
居場所に通っている方がどう変化したか、大学の協力を得て、調査にも力を入れています。その中で、週1以上居場所を利用する方の2割が新たな活動の担い手になったという結果が出ていて、単なる居場所ではなく、インキュベート機能も果たしていることがわかって、こちらも勇気づけられました。また、フードロス問題で、どうやって食材を必要とするところまで届けるのか、コストを誰が負担するのかという課題に対して、生鮮食品だけを直接引き取って子ども食堂に届けるという調査事業も実施しました。
助け合い、活動を生み出すネットワークづくり
また、シニアの方向けのショートワークの機会を作る活動も実施しています。2人でチームを組んでいただいて、こども園の朝の水やり、高齢者施設の配膳などを有償ボランティアで担っていただくものです。2人1組ですので、必ずどちらかの方が仕事を担当するようにする、下請けにならないように、半分は仕事、もう半分の時間はボランティアのしたいことを任せていただく、そういった工夫を施しています。こうやって、色々な人が参加して、活動できる枠組み作りをすることを、いつも試みています。
飛田さんの活動紹介につきましては、こちらもご覧ください。
飛田さんから、色々な場所、例えばガレージや薬局を居場所として利用しているというお話が出ましたが、今まではニーズが先にあって、そこにどう資源を持ってくるかという考え方だったと思いますが、今は資源はあるもののその活用方法や担い手の不足が課題になると改めて感じました。では、コロナ禍における状況と課題、また今後の可能性についてお2人にお伺いしたいと思います。
海外のお客さんはほぼゼロになりました。日本人の方も移動を控えているので、観光業全体が苦しい状況にあると思います。その中で、非対面にするか、交流を重視するかの二極化が起きつつあると感じています。萬家の場合は交流という軸があって、それがしたくてゲストハウスをしているので、そこは諦めたくないと思っています。無人化となると、規模が大きいところに太刀打ちできないですから、地域に根ざした宿屋として、地域の情報を伝えたり、来ていただいた方に地域にまた来ていただけるよう促したりを地道に積み重ねる、これを継続したいと思っています。
また、部屋が空いている一方で、コロナでしんどい思いをしている人も多いのが現状です。特に留学生は、まだ日本の社会に慣れていなくて困っていることが多いと思います。自分もかつては留学生でしたし、就職活動のさなかに東日本大震災があって、多くの方に助けていただきました。恩返しという思いで、今回は留学生を対象に無料で宿泊する場所を提供することもしています。また、大学生全体が大学に行けない状況なので、学生向けに、空いているガレージを回収して、活動やプロジェクトを生み出す場所として使ってもらうということにも着手しています。
それと、韓国と日本をつなぐことはやってみたいと思っています。また、商店街ツアーをオンラインでやって、萬家を思い出して、また来てもらう、そういった種まきもしっかりやっていきたいところですね。韓国にも萬家ができたらとも思っていますね。悩んでいるみなさんとも相談できたらと思います。
今まで場所を見つけては活動立ち上げということをしてきましたが、調査をしてみると、コロナ禍でも活動を続けたところ、それをきっかけに止めたところが出てくるわけです。そこにどういう違いがあったのか、詳しく調べているところですが、どうやら、内部人材にどれだけ多様性があるかが重要になるようです。家族だけ、シニアだけという場合は、続けるのがしんどいケースも多い。一方で、色々な年齢、バックグラウンドの方がいると場面場面で多様な意見がでて、続けられるケースが多いように思います。また、外部との関わりについて見ると、できることを発信したり、事業でできたつながりから新たなニーズを見つけたり、というエコシステムを確立している活動は一皮むけていく、という傾向にあるようです。朴さんから留学生を支援しているお話がありましたが、自分たちが地域で何ができるかという発想のところは強いのだなと感じています。
最近はコロナを負の遺産にしたくないと思っています。阪神淡路大震災がNPOが盛んになる契機だったように、新たなことが生まれる契機であってほしい。例えば、大学生に協力してもらい、シニア向けに居場所のLINEグループの作成支援などもしています。コロナ禍があったからこそ、オンラインというツールを介して、大学生と居場所の方たちが出会うことができました。このように、コロナ禍において特に必要とされるような、新しいプログラムができないかと常に思っているところです。
おふたりのお話からは、双方向性、支援してもらうだけではなく、こういうことができますよというお互いさまの関係があることがとても大事だと感じます。企業が実施する社会貢献活動も同様のことが言えると思います。飛田さんにはさらに調査を進めて数値化してもらえれば、さらに見えてくることがあるのではないかと思います。
阪神淡路大震災後に神戸復興塾の事務局長をしていたのですが、集まった人たちが言っていたのが、神戸は地震によって10年先の未来に放り出されたんだ、ということでした。コロナもそれにあたるのではないかと。大変な状況だけど、10年先はオンラインになっていたかもしれないのが、急にやってきた。人が動けない、密になれないというのは予想外だけど、一度オンラインを経験したら、そう簡単には離れられないのではないか。その点では、時間が加速したとも言える。胎動していたものが一気に表に出た状況で、活動や交流をどう新たに確立するか、そこが重要になると思います。
今回は、贈る・受け取る・返礼する「エコシステム」が地域に確立しつつあって、それが地域で豊かさを生み、「共生」を実現していく、という過程が垣間見えるお話でした。また、それが新型コロナウイルスの感染拡大という苦しい状況下で逆説的に起こっていることは、新たに一歩を踏み出そうという希望につながることなのではないでしょうか。身近な地域で起こっていることへの目を向けること、そして関わってみること、そこから今までとは違う何かが生まれることの一助を、KIITOの社会貢献のプラットフォームも求められている、そのように感じるお話でした。
「共生」の場と機会を作ること、支援すること──社会貢献活動プラットフォーム 社会活動・地域活動についてのリレートーク 第1回のページはこちらをご覧ください。
本トークの映像アーカイブはこちらからご覧いただけます。