2021/8/12
イベントレポート
6月16日(水)、土居和生さん(株式会社おてつたび)と鶴巻耕介さん(つるまき農園)をゲストにお招きし、「人と現場をつなぐ「マッチング」と、地域の新たな「社会的資源」の可能性を考える──社会貢献プラットフォーム 社会活動・地域活動についてのリレートーク 第2回」を開催しました。
このリレートークは、今年度夏から当センター3階に「社会貢献活動プラットフォーム」が設けられることを受けて、社会活動・地域活動のプレーヤーを招き、活動からの学びや課題を共有し、社会活動・地域活動に興味・関心を持つ方々の輪を広げることを目指して開催されるものです。先立って、「相談業務」が始まっており、担当アドバイザーである田村太郎さんがモデレーターを務めます。
第2回のリレートークでは、地域の強みとなり得る社会的資源の掘り起こし方や、地方・都市の抱える課題を関心人口へ共有し、関連人口ヘとつなげていく方法について、ゲストのお二人それぞれの取り組みや立場からお話を伺いました。
最初に、土居さんと鶴巻さんそれぞれに、自己紹介的に現在の活動とそこに至るまでの経緯や想いなどについてお聞きしました。
鶴巻さん:
市街地から30分、茅葺き屋根のある景色へ
つるまき農園という農園を営んでいます。農園という名前ですが、私は兼業農家で、土や人、暮らし方など様々なものを耕せる人でありたいと思って「つるまき農園」という屋号にしています。
東京生まれの東京育ちで、高校時代、学校が都心のど真ん中、満員電車の中で人に埋もれるように通学している毎日で、これから何十年と都会で暮らしていく人生に疑問を持ち、大学から神戸にやってきました。
大学卒業後、NPOなどの教育関係の仕事に就いていましたが、地域に移住し、地に足つけて暮らし自律したいと思い続け、縁あって31歳の時に独立し神戸市北区の淡河に移住しました。以来7年ほど「まちづくり」という言葉をベースに、農村地区での多様な仕事の創出を目指す活動を続けています。
そもそも神戸に農村ってあるの? と思われがちですが、神戸と聞いてイメージするようなエリアの北や西側には、近畿で3番目ぐらいの農業生産額を誇る広大な農地が広がっています。
畑で仕事をしたあと車を30分も走らせれば、市内の中心に到着という環境も私のような兼業農家には理想的です。また市内には700棟程度の茅葺きの家が存在し、現存する日本最古の民家「箱木千年家」も神戸市内にあります。
複業としての農業
「百のことができるのが百姓。だから百姓は誇り持って農業をしろ。」
農業をするにあたって、私が憧れた言葉です。
淡河に来てから、「百の知恵と技を持つ=百姓」という定義を踏まえて、先達が伝えてきた知識や経験と今必要なスキルを重ねて複業する「現代の百姓」としての人生を目指しています。
農家として、自分の複業スタイルに合った作物としてさつまいもと落花生を栽培、10月に一挙に収穫して、冬の間に熟成させつつ干し芋やその他加工品にしてネット販売するなど、全収入の4分の1ぐらいを農業で稼げるようになってきています。
働き方も多様化している中で、私のような新しい兼業農家のあり方を模索する取り組みとして展開しているのが「マイクロファーマーズスクール」です。新規就農を目指す場合、1200時間ほどの研修に参加することが必須で、仕事を辞めて専業農業で食べていくしかないと追い込まれがちですが、収入の3分の1ぐらいの兼業を目指す形があっても良いのではないかということで、資格取得の簡素化についても神戸市と話をしています。
今年で3年目を迎える神戸農村スタートアップは、テクノロジーを活用しながら農村で何か新しい仕事の可能性をさぐるという意味で「農村スタートアップ」と名付けています。コロナ禍でもあり、正式に起業したという事例はまだこれからですが、人が農村地区に関わるきっかけとなる起業スクールという位置づけで展開しています。
手掛けている諸々の事業は全体として「繋ぐ」ということをメインテーマとしています。10年15年と長いスパンで農村と都市部の間で相互理解を少しずつ深めつつ、プレーヤーを増やし、繋いでいきたいと思っています。
鶴巻さんの活動紹介につきましては、こちらもご覧ください。
土居さん:
お手伝いをしに、旅に出る
大阪の柏原市に生まれ育ちました。温泉やいろんな地域を旅するのが趣味です。
「おてつたび」はお手伝いと旅を組み合わせたサービスで、弊社「株式会社おてつたび」が提供を開始してから3年弱になりますが、すでに47都道府県におてつたび受け入れ先が広がっています。日本全国には、観光地に選ばれにくいだけで一般に知られていない土地がまだたくさんあり、そこに人や想いがめぐるような社会をつくりたいという弊社代表の思いをベースに、人と地域を繋げるプラットフォームとして展開しています。
大前提として、季節的短期的に人手不足で困っている地域の農家さんや旅館さんなどと、手伝いたい若者の間を繋ぎます。観光ではなくお手伝いに行く、しかも現地としっかり関係性を創り、観光で知り得なかったその土地の魅力を知って、紹介したくなる、後で足を運びたくなる、地域の名前を聞くだけで嬉しくなり、その土地のものを買いたくなるなど、地域と事業者のファンをつくる取り組みです。
元々は宿泊施設の繁忙期における短期的な人手不足の解消を目指すところからスタートしましたが、サービス開始後半年ぐらいで、農業の人手不足から、漁業、地域のお祭、林業、雪かき、薪割り、海洋プラスチックのゴミ拾いなど、いろんなところで声がけやニーズを頂いています。
サービスのスキームとしては、参加者は宿、食事はおてつたび先で提供されるので無料、お手伝いがない時間帯には観光など自由時間があり、受け入れ先から支給されるお金を交通費や観光の費用に当てるので、交通費も実質無料です。弊社は受け入れ先からマッチング手数料を頂くシステムです。
受け入れ側のメリットは、人手不足の解消だけでなく、地域外の人たちに来て知ってもらい、さらにファンになってもらえば地域の活性化に繋がるという点です。参加者の反応によって、受け入れ側の地元の良さの確信と自信にも繋がっています。年々人気度も上がっており、現在で倍率が3倍から5倍ほど、募集開始と同時に応募が殺到する状態です。
自治体との連携も進んでおり、コロナ禍での新しいニーズを受けての展開をしています。
遠くから来てもらうのは抵抗があるので、近場の人に来てほしいという地域からの要望も増加中です。
また、大学の授業も、企業の仕事もオンライン化が進んでいるため、大学の授業を受けながらおてつたびする学生や、社会人がワーケーションがしながら参加するなどの事例もあり、実際、岡山県ではおてつたびがきっかけでプチ移住をした大学生もいます。
また、オンラインで月に1回、おてつたび経験者とおてつたびに興味のある方(あわせて地域の人たち)との交流の場をつくるイベントも実施しています。
「おてつたび」の取り組みにつきましては、こちらもご覧ください。
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田村さん:
色々な人がもっと気軽に参加できるように敷居は下げる、でも地域の側としては、本音のところでは長く関わってほしいなど、参加する側と受け入れる側の求める部分のバランスをとるのが難しい。お二人はこのバランス問題をどう考えておられますか?
鶴巻さん:
いわゆる「援農」が、簡単なようで結構難しいのも似ていますね。参加する側は収穫作業を期待する、農家側にしてみると収穫というお金にするための超大事な最後の作業をちょっと手伝いにきただけの人にさせるわけがないと思っている。農家と都市部の間で、「援農」ではない、また一つ新しい日常的でもっとフラットな関係性を、お金を介在させずにできる方法がないかなと色々考えています。
土居さん:
「援農以外の」っていう話がありましたが、おてつたびではあえて「お手伝い」という言葉を使っています。仕事とかアルバイトとなると雇用被雇用で上下関係のイメージがあり、ボランティアとなると逆に、地域の方が委縮してしまうイメージで、お手伝いっていうのがちょうど対等な関係を保ちながら関われるのが良いのかなと思っています。
移住が前提だと重い話ですが、10日間とか2週間とか「お尻」の決まっていることも大事です。
実際一定期間行って、色んな地域を見て、自分に合う地域、人、何か縁を感じる地域を見つけてもらいたいので、敢えておてつたび自体のゴールは、「移住」には置いていません。その地域との関わりを持つというところをゴールにしています。
田村さん:
この土居さんのお話は、市民活動や社会活動にとってメタファーであり、応用の利く内容です。市民活動でボランティア募集しても集まらないというのは、よく聞く話です。土居さんで言うところの「お尻が見えて」いれは、ちょっと行ってみようと思えます。でもいつまで続くかわからないと言われたら、申し込めないです。いろんな市民活動とか社会活動とかって、チラシに「お気軽にどうぞ」って書いてあるのに、出口を書いていないですから。
田村さん:
土居さんが現状で課題に思っていること、今後の可能性を感じておられることがあれば聞かせていただけますか。
土居さん:
課題というと、結構皆さん最初に「募集しても、うちの地域は誰もこないよね」と言われるのです。「白浜とか有名観光地がおてつたびの募集を出せばすぐ集まるでしょう? ウチに来てくれても、何も無いし…」という意識が潜在的にあるので、私たちがどれだけ「いやいや大丈夫ですよ」と言っても、最初は信じてもらえません。おてつたびに参加した人にアンケートで聞いてみると、この際なら名前すら聞いたことがない地域に行きたいという子が、圧倒的に多いのです。今の若い世代を中心に、地域に関心がある、農業に関心があるという子たちは、知らない地域に行きたくないのではなくて、行くきっかけを偶然見つけられていないだけで、プラットフォームとして場をしっかり提供してあげることが必要なのです。ここをもう少し地域の皆さんとディスカッションしながら、進めていければいいかなと感じております。
田村さん:
お二方から、今日参加している「なにかやりたいという人」を受け止めて、背中を押すような一言を最後にお願いします。
鶴巻さん:
20代の頃からボランティアに関わってきましたが、例えば農業の課題で、高齢化とか収入が低いとか、問題ばかりに着目して活動すると、面倒くさいやつになってしまいます。そういう前提はありつつも、それを面白くちょっとずつ良い方向に解決するために、こんなことを考えているんですが、一緒にやりませんか? という前向きな捉え方で人を巻き込んでいけるといいんじゃないかなと、そういうことを意識しながらやっています。一緒にそういうコミュニティが作れたらいいですね。
土居さん:
学生さんは今のうちにいろんな地域に出向いて、いろんな方とのご縁を作ってほしいなと思います。私は「ゆるやかなつながり」というのを心掛けています。毎日顔合わせて悩み事を相談できる存在も大事ですが、本当に自分が悩んだ時に相談したい存在がどこかにいる、そういう人たちをたくさん作っていただくきっかけとしておてつたびというものを通して、学生さんに限らず社会人でも繋がっていただけたら嬉しいなと思っています。
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人生100年時代と言われ、ライフステージやキャリアを見直すタイミングも複数回存在するようになってきた時代にあって、若いうちの豊かな経験と出会いのためというだけでなく、50歳ぐらいの人生が変化する時に今までと違う環境に一回ポンと行ってみて、なにか新しい繋がりやチャレンジをしてみるというビジョン、そのために必要な部分を繋いでいくプラットフォームの存在と役割の重要性が、お二人とのトークから改めてみえてきます。
このリレートークも、これからKIITOに生まれる「キャンプ」と「ファーム」というプラットフォームを通じた場づくりを念頭においたテーマで実施しており、今回もKIITOと農村との間でいろんな豊かな体験を生み出せないか、おてつたびとの共同プロジェクトなど、今後の展開に想像が広がりました。
人と現場をつなぐ「マッチング」と、地域の新たな「社会的資源」の可能性を考える─社会貢献活動プラットフォーム 社会活動・地域活動についてのリレートーク 第2回のページはこちらをご覧ください。
第2回リレートーク概要URL:https://kiito.jp/schedule/event/articles/48625/
本トークの映像アーカイブはこちらからご覧いただけます。