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2022/4/30

イベントレポート

Assembleー変容する「場」の可能性を考えるトークセッション 第2回「地域のつながりと、生活を豊かにする場としての図書館」レポート

2022年4月16日(土)

神戸市立三宮図書館との連携事業として、Assembleー変容する「場」の可能性を考えるトークセッション第2回「地域のつながりと、生活を豊かにする場としての図書館」を開催しました。第2回は、図書館情報学を専門に、「第三の場」(サードプレイス)「公共空間」「社会的包摂」「社会関係資本」をキーワードに研究を行われている立命館大学文学部 教授の久野和子さんをゲストにお迎えし、北欧図書館をはじめとした国内外の図書館の事例紹介をいただきながら、人と図書館、地域と図書館の豊かな関係づくりを探りました。

久野 和子
筑波大学大学院地域研究科修士課程修了(アメリカ研究)。京都大学大学院教育学研究科修士課程修了(図書館情報学)。大阪府立大学非常勤講師、愛知学泉短期大学専任講師等を経て2014年神戸女子大学文学部教育学科准教授、2022年立命館大学文学部教授。主著に『「第三の場」としての学校図書館:多様な「学び」「文化」「つながり」の共創』(単著)、『図書館の社会的機能と役割』(共著)などがある。文科省科研費研究課題「『公共空間』としての図書館の先進的研究」(2017年–2022年)、「『場としての図書館』の統合的研究:日本の新しい21世紀型図書館パラダイムの提唱」(2014年–2016年)の研究代表者をつとめる。


〈北欧の図書館/国内の図書館〉

フィンランドの人口は5,495,000人、図書館数は719館あり約7,600人に1館という割合になります。
日本は2020年時点で3,000館以上の図書館がありますが、割合としては約38,000人に1館という割合です。
ここからフィンランドと日本における環境の違いが見えてきます。
フィンランドには、地域の特性や生活に根ざした個性と特色ある図書館が多くあり、そこには専門的なスキルを持つスタッフがしっかりといるとのこと。ここから、久野先生がリサーチされた北欧の図書館をご紹介いただきました。

〇パシラ図書館(フィンランド・ヘルシンキ市)
・オフィス街にあるコンパクトな図書館。
・館内空間の特徴として広場のような空間があり、中央には噴水のような泉がある。そこを取り囲むようにカフェテーブルやチェアが置かれ、室内でありながらも開放的な演出の中で思い思いの時間を過ごすことが出来る。
・児童サービスコーナーも充実。ソファやムーミンが描かれた椅子など、温かみある北欧デザインが感じられる設え。
・漫画やゲームも置かれている。
・移民や難民の方が多く利用するランゲージカフェが人気。地元の住民の方たちと彼らが自由に集まって、飲み物やスナックを片手に自由に会話するような場が作られている。ここで、暮らしの中での相談や情報提供などが行われている情報センターのような役割を担う。

〇Sello図書館 (フィンランド・エスポー市)
・市の中心部、駅前の大きなショッピングモールに併設する前面ガラス張りの図書館。
・図書館のポスターには、フィンランド語、スウェーデン語、英語で「あらゆるサイズ、あらゆる肌の色、あらゆる年令、あらゆる性別、あらゆる考え、あらゆる宗教、あらゆるタイプ、あらゆる人々、ここは安全です」と掲げる、社会的包摂と多様性を尊重する図書館。
さまざまな方たちを対象とした社会的包摂を推進する象徴的な図書館。

〇リクハディンカト図書館(ヘルシンキ市)
・市の中心部の邸宅街に位置する図書館・
・吹き抜けと螺旋階段が特徴的。読書スペースは、赤い重厚なカーテン、鮮やかな緑の壁、ゴールドなど華やかな家具、絵画や植物などが置かれており、邸宅の暮らしを味わえる高級感が感じられる空間が広がる。児童室には専門の司書が常駐する。
・中庭には、椅子やテーブルのほか、クッション、ピアノ、ベッドまでもがあり、本を読むことができる。

〇ヘルシンキ市図書館(ヘルシンキ市)
・若者が多い住宅街に位置する図書館。
・天井が高く、明るく開放的な洗練された室内。
・経済的な支援として、本の貸し出し以外に、パソコンや自転車、ボートやボールなどものの貸し出しに力を入れている。

〇Oodi図書館(ヘルシンキ市)
・2018年に開館したフィンランドで初めての超大規模図書館。ロシアからの独立100周年を祝う国の公式メインプロジェクトの一つとして建設された。
・博物館、美術館、音楽ホール、劇場、メディア企業、国会議事堂などがある国と市の中枢の場所に位置する。
・建物は橋梁構造の3階建て。1階は多目的な公共の広場。公園や遊び場(外) 、映画館、ホール、カフェ、レストラン、市民情報サービスカウンター、案内カウンターなどがある。図書館前には遊具がある他、広場で遊ぶための遊具の貸し出しも行う。2階は、専門的なスペースを備えたワークショップスペースのあるエリア。学習スペースの他、個室、多感覚ルーム、メイカースペース、ゲームルーム、PCルーム、音楽スタジオ、ミーティングルーム、デジタル・アートギャラリーなど多様な機能を持つスペースがある。3階は、児童コーナーや本・雑誌・新聞などのある読書フロア。柱もなく、真っ白な天井に開けられた天窓から自然光が降り注ぐ、ブックヘブンというにふさわしい空間が広がる。
・読書、民主主義、表現の自由のOodi(頌歌・讃歌)を体現している。
・「ゆっくり静かにリラックスできるスペース」「イベント、ワークショップ、工作、仕事」「共同的な学び」「家族で過ごせる場所」「世代を超えた対話」「すべての人に開かれた非商業的な出会いの場」といった市民のアイデアと願いから作られている。

 

〈北欧の図書館は民主主義を体現する場所〉
Oodiを作るうえで一番参考にした図書館は、Dokk1 ドッケン(デンマーク・オーフス市)という複合施設なのだそうです。
デンマーク語で民主主義はデモクラチです。
デモクラチとは人々が対話、話合いを通して互いを尊重し理解し合えるということ、それを土台として社会を構築していくこと。フィンランドでは、このような民主主義の考え方が一般に広く認識されているそうです。

日本の図書館では、あれしちゃだめ、これしちゃだめと沢山の注意書きが貼られていますが、北欧では館内にそのような張り紙は殆どないそうです。また、本だけではなく、モノの貸し出しが行われているというお話しも印象的でした。日本ではあまり聞きなれませんが、古くからアメリカでは盛んなのだそうで、経済的な困難を抱える方々が住むエリアでは、電動工具、芝刈り機、ネクタイやスーツなども貸出すところもあるのだとか。
また、北欧の図書館は、置かれている家具はシンプルながらスタイリッシュなものが多いのですが、どれも最高のものを揃えるようにしているのだそうです。このようなお話しからも図書館がどのような場所であるべきなのか、確かな考えが感じられました。

地域のつながりと生活を豊かにする図書館を考えるためのキーワードとして、こどもの権利条約の中の文化権を提示されました。最も弱い存在である子どもにどのように関わるかが非常に重要。学習、情報が中心になっているが、生きている以上、生活、命、繋がりが大事であるとも重ねられました。

こどもの権利条約
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第31条
「文化権」
(ⅰ)休息権・余暇権
(ⅱ)遊び権・レクリエーション権
(ⅲ)文化的生活・芸術への参加権
=====
「休息」:体を休めること。
「余暇」:「のんびり」「ぼんやり」「ぶらぶら」する時間を過ごせること。価値や意味を問われない時間を自由意志で過ごすこと。

以降、その中の権利と北欧図書館の機能と照らし合わせながらお話しをいただきました。
まず、(ⅰ)休息権・余暇権に関する取り組みについて「北欧図書館には、ベッドに横になると昔話が聞こえてくる仕掛けのキッズスペース、大きなクッションに寝転がって本を読むことができるスペースなど机はなくベッドとソファだけが用意された工夫された空間があります。」とのことです。また、北欧では学校図書館でもソファやベッドを置く取り組みがここでもされおり、同様の取り組みが韓国でも導入されてきているのだそうです。

続いて、(ⅱ)遊び権・レクリエーション権について、まずは遊びの定義について『子どもの文化権と文化的参加:ファンタジー空間の創造』(佐藤一子・増山均編著)より引用いただきました。
久野「「遊び」とは、文化の基盤であり、人間、特に子どもにとって必要不可欠なもの。自ら主体的に生き、育っていく上で最も重要なエネルギーを生み出す根源的な営み」です。北欧図書館には、遊園地のような遊具が置かれていたり、テーブルゲーム、チェス、トランプ、アート体験、ボードゲームなどができるようになっています。」
ボードゲームは成功体験、コミュニケーション、考える力、忖度する力を育てると注目され幼稚園からボードゲームが置かれているというお話もフィンランドの教育について知る一つのエピソードでした。

そして、(ⅲ)文化的生活・芸術への参加権について、世界の図書館が取り組む、本を貸出す以外の機能についてお話しいただきました。
久野「北欧をはじめ、ソウルやシカゴなどの図書館では、読書/音楽/美術/料理/ものづくり/インターネット/最新テクノロジーなどが無料で体験できる機能としてメイカースペースが置かれることが主流です。専門スタッフが常駐し、子どもたちの活動をサポートするように体制づくりもされています。最先端のメイカースペースなどもありますが、刺繍や編み物も人気があります。ものづくりにはつながりを生む役割があり、また、同じ動作を繰り返す刺繍や編み物には精神的なケアの効果もある。作ることは生きる上での本質的な喜びを与えてくれるのだと思います。」

最後に、国内の図書館の事例として、佐賀県にある伊万里市民図書館を紹介いただきました。
市民と一緒に作られたこの図書館。図書館条例には「伊万里市は、すべての市民の知的自由を確保し、文化的かつ民主的地方自治発展を促すため、 自由で公平な資料と情報を提供する生涯学習の拠点として、伊万里市民図書館(以下「図書館」という。)を設置する」という、図書館としてのあるべき姿勢を体現する重要なキーワードが含まれています。体育館のように広々とした室内にはBGMが流されていたり、福祉団体が運営する福祉カフェもあり、就業機会の提供につながっているのだそうです。

レクチャーの最後には、イベントタイトルにある「地域のつながりと生活を豊かにするこれからの図書館」について、「すべての人に開かれた居住的、機能的な出会いの場」「誰もが「尊重」され、「平等」に「安心安全」にリラックス(休息)できる「居心地よい」生活の場」「多様な人々や資料・情報・最新技術の創造的な出会いと交流、つながりをもたらす」「「文化」(読書、学び、芸術、音楽、アート、創作活動、遊び)を体験する、または参加する場であり、共創する(豊かな生活)場」と、4つのあるべき姿についてお話しいただきました。

 

「図書館はどのように評価されるのか」というモデレーターの三宮図書館・鈴木館長からの質問について「北欧図書館は、実は書架数はあまり多くはないんです。訪問して驚いたのは、図書館の未手続き持ち出し(無断持ち出し)を防止する防犯装置、BDS(ブックディテクションシステム)がないことです。貸し出しも返却も機械なので、そのまま持ち出すこともできるんですよね。図書館のスタッフに尋ねると、「システムがあっても無くても、無くなる時はなくなるから」と。市民を信頼している考え方だと思いました。本の貸し出しということが、どこまで図書館の価値を表すのでしょうね。北欧図書館の姿勢などから学ぶならば、どれだけわくわくしたか、どれだけ繋がれたかなどの方が大事なのではないかと思います。それを図っていくしかないのかなと思います。」とおっしゃっていました。

北欧図書館について国内で学ぶには、まだまだ情報が多くはありません。そのため、図書館のご紹介だけでも北欧の魅力を知る貴重内容でした。しかしながら、トークイベントを通した大きな気づきは、久野先生が発表の中で引用されたハンナ・アーレントの言葉「公共的空間とはあらゆる人の自由のための場所 つまり席がもうけられている場所だ」にあるように、図書館の活動やその背景にある考えを知ることで、公共の場としてのあるべき姿を強く認識する時間となりました。

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