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2023/5/3

イベントレポート

濱田明日香アーティストトーク レポート(「THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti 」展関連企画)

2022/4/29(金)

「THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti」展の関連企画として、アーティストトークを開催しました。
濱田明日香さんのほかに、聞き手として神戸ファッション美術館の次六尚子さんに登壇頂き、ニットプロジェクトの中での実験的な試みや制作の裏側、本づくりや展覧会について、質疑応答の時間も含めて2時間たっぷりお話しをいただきました。

撮影:植松琢磨

 


次六:
KIITOでのテリアカの展示は、2019年に続き2回目となります。展覧会や書籍の出版に合わせてインタビュー記事なども出ていますが、今日はここでしかうかがえない話や展覧会の裏側について探っていきたいと思いますのでどうぞ宜しくお願いいたします。私自身も2019年の展覧会の際に濱田さんとお会いして、そこでもお話させていただきました。今回出版された本の中でも、濱田さんのインタビュー記事で聞き手として関わらせていただいています。取材の時、濱田さんはドイツにいらしたのでオンラインでのインタビューではZOOMで2、3時間くらいお話しさせていただきましたね。2019年の展覧会以降、どのように過ごされていたのでしょうか?

濱田:コロナが始まって、こんなに長くかかると思っていなくて。2019年が忙しかったしちょうど良い休みになってゆっくりしたペースでやろうと思っていました。コロナ禍の主な仕事としては「かたちのニット」という編み物の本を出版したことですね。この時、編み物熱があがっていて視点の違う編み物をしたいなということで、この本「THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti」づくりしていました。仕事としては編み物が多かったかな。あと、コロナの影響で自宅から出られずおしゃれをする機会がどんどんなくなっていたので目一杯おしゃれしてスーパーに行っていました。おしゃれ心を無くさないようにするのが大変だったかなーという気がしています。

次六:オンラインでお話しした時、日本も同じですって、話していましたよね。

濱田:そう。やっぱりお店も閉まっているし、ドイツだとコロナ初期は予約しないとお店に行けなかったから洋服屋さんに入るということがほぼなくて。おしゃれって人に見られる機会がないとやる気にもならないというか。人と会うって大事なのだなと。自分が満足するおしゃれというのもあるけれど、人に見られるということも結構大事な要素だなと思いましたね。

次六:みなさんから見えている活動としては展覧会や出版をされていらっしゃいますが、展示会はコロナ禍ではされていませんでしたよね。ですので活動をストップされているように見えなくもなかったかも知れませんが、その中で、アーティストの方、制作されている方は色々と考えながら、感じながら過ごされていたのだなと。

濱田:そうですね。最初はゆっくり考える時間ができて制作が進められるからラッキーくらいの感じだったのだけど、やっぱりどんどん刺激がなくなっていくというか、そういう意味では自分の制作モチベーションをどうキープするかということもありました。

次六:そのような中で、ニット本の話が出てきて取り組むことになったと思いますが、まずは作品制作をしてから本のための写真撮りをされたと思います。具体的にどのような作品をつくられることになったのかうかがえますか?

濱田:ダルマ糸の横田株式会社からはじめにお話しをいただいて、私の方から自由なかたちでニット本を出すということを提案させていただきました。アート本は売るのが難しい本だと思っていたのですけれど快諾いただいて。それがこの本をつくることになったきっかけです。

次六:ニット本というと手芸のイメージが強いですが、そこからどのように濱田さんの色を出すのかということに苦労されたと思います。そのあたりをお聞きできますか。
(スライドで本をみながら)

濱田:今回は作り方を伝えるというより、自由なアイデアやニットをどう捉えるかとか考え方の幅をどう広げるかとかを伝えたくて。食品とか細くて長いものであればあみ糸でなくても編めるのじゃないかと考えて、スパゲティなどの食品を編んでみたりました。うどんもやってみたけれど切れやすくて。

次六:これはクッキー?

濱田:クッキーも細くしたら編めるのじゃないかと思って生地を編んで焼いてみました。プレーン生地地の他にココアを混ぜた生地でもやってみたのですけど、ちょっと見た目が大変なことになってこれは使えない、出せないとなって(笑)焼き上がったクッキーを食べてみたのですが意外と食感も面白かったです。パスタは具も編みたかったけれど乾燥するとカピカピになってしまうので面白いのだけどすぐに食べないとものにならなかったです。

クッキーを編んだ作品 撮影:植松琢磨

 

次六:続いて、これはなんでしょうか?

濱田:編み物糸じゃないもので作ったシリーズです。細長いからなんとかならないかと思ってストローを使って編んでみました。実際には切って格子状に編んでいきました。素材的にも洗えないので着られない服ではあるのだけれど、素材感や柄の出かたが面白くてなんとか着られるものにできないかと糸で編み直しました。着られない素材でもそこから発見があって。そうしながら段取りを組んでいったものもあります。

 

次六:今回の展覧会もですが展示会場にはキャプションもありませんし、出版物の特徴としてあまり説明をされていない。ビジュアルを重視して展示されているので同じ素材を使っていると思っていても、近くで見てみると違う素材を使っていたり、もともとストローで編んだものを糸で編み直していたり。このような試行錯誤を濱田さんの中では“実験”と呼んでいますよね。前の『服のかたち』の時、前作の時もですけどその“実験”をたくさん繰り返されているのですよね。

濱田:“実験”とよく答えているのですけど、要はアイデアを出す過程の試行錯誤って科学とかの研究と同じなんじゃないかと思っていて。仮説があってそれを実験してその結果によって次を考えるみたいな段取り。私の場合は、新しいアイデアや新しい創作みたいなものは、この“実験”を経ないと出てこないと思っているんです。そのまま見たものや頭に簡単に浮かんだものを作ることも可能だけれど、気をつけているのは服を見て服を作らないということ。見たこともない物を形にしていく、そういう発見をしていくには“実験”しかないのじゃないかなと思ってそう呼んでいます。頭にあるものの絵を描くのではなくて、素材を触ってみて面白いところで手を止めるという作業を繰り返しているんです。実際に実験の中でものにならない、面白くならないものもあったりします。そのような段取りを踏んでいます。

次六:今回の出品されている作品や本に掲載されている作品に対して、実験された割合ってどのくらいのものなのでしょう。どれくらい見せられるものになったのでしょうか。

濱田:どれくらいだろう。半分くらいでしょうか。

次六:私の印象ですと、濱田さんはすごく実験好きのイメージがあります。

濱田:時間がかかってしまうし無駄も多いのですけれど。コレクションを見て流行りを抽出したものを作れば早いのだけど、そうではない方法をやろうとしています。

次六:無駄と言われますが、その過程が面白いと感じています。今回の展示と本では、今までなかった制作過程も写真に収められていていますよね。

濱田:本も展覧会も、完成品だけではない試行錯誤の部分を残して見せたというのが今までと違うところかなと思っています。美術館へに行ってもアーティストのスケッチとかが展示してあると好きで見るのですよね。自分自身もいろんな過程を踏んで、今回は形にならなくてもやったことで次に派生することもありますし、見ていただく人たちが「こういう考え方もあるんだ」「こんな段取りを踏んでできた作品なんだ」とか過程から読み取れるものもあるかなと思っています。

次六:展示としての説明は無いのですが、種類を分けて展示するといったカテゴライズもされて無いのですよね。濱田さんのインスピレーションで可愛いもの、魅力的なものを切り取ったようなかたちで見ていただける展示になっていると感じました。例えば並んだ小さい紙はレシートを細く切り刻まれて編まれていますね。

濱田:糸状にすればなんでも編めるのじゃないかと、身近にあるものを片っ端から細くして編んでいくということをしました。説明が無いというのは意図的にそうしています。本の構成もカテゴライズしてタイトルをつけて見やすくするというよりはランダム。見る度に発見があって「あ、こんなページもあったんだ」というような、そういう本になればいいなと思ってキャプションも無くしています。本の中の説明も少ないのでテキスト部分を読み込んで貰わないと何故これを作ったのか分からないかもしれない。

次六:このトークの重要性が際立ってきますよね。本のインタビュー部分には、インタビューの中で話している作品が掲載されているページ数が載っているので、それと照らし合わせながら見ていただけると楽しめるかなと思いました。何でもない日常のものが濱田さんにとってすごく面白いものであり、形である。そこからアイデアがどんどん生まれているという。うかがっているカテゴライズに分けてご紹介すると来ていただいた皆さんに分かりやすいかなと思います。まず初めはパスタからうかがいます。

濱田:制作するときにはカテゴライズはしていないので、出来たものを無理やり分類するということになるのですけど、とりあえず一つ目は、パスタ、クッキー、ストローなど素材を編み物糸以外にしてみる実験。編み物で面白いものを作ろうとしたとき、編み地に凝るパターンと糸そのものに凝るパターンとがあると思うのですけれど、靴紐やロープなど編み物糸じゃないけど編めそうなものでも実験しています。糸から作ったものもあって、チューブ状に生地を縫ったものに綿をつめたり(うどん)、他には編み物糸は使うのだけどリリアンでさらに太く編んで新しい編み糸にしたり。これはえげつない時間がかかっていてめちゃくちゃ大変だった。一方で、水玉がぶら下がった糸を作って、それを使って水玉模様のパターンを作ってみたり、さっきも出てきた紙を細く切ったりとか、ウレタンシートのようなものを細く切るとか。これ面白かったのですが、糸そのものを工夫してみるというような実験を今回は沢山しました。

次六:ウレタンシートも作って編むということでしょうか?

濱田:いや、買ってきたものを切って編みました。好きでしたが今回は実験止まりだったので、次はもうちょっと何かにしたいなと思っていて。素材はこんな感じですね。

うどんバック 撮影:植松琢磨

 

次六:編み方としては裂き編みという、もともとある編み方をされているんですよね。

濱田:裂き編みという編み方を使って編むのだけれど、ストライプを横に裂くか縦に裂くかでも柄の出方が変わったり、もとの生地と編地を比べて見た時に表情の違いが面白かったり。あとは、編む作業そのものについて考えたりもしました。ひとあみひとあみ編み込むって粘着質な技法だなと思っていて。今回制作した中に、ミニチュアセーターの作品があるのですけど、服って着る目的はあるけど飾るものとしては認識がない。それで思い入れのあるセーターをほどいて思い出と共に小さく編み直して飾ると、着る以外で服を持つこととか、セーターの持っていた記憶を残すということができるのじゃないかと思って制作しました。あと、なんでも細く切って編んでいた時に本も切って編んでいたのですけれど、編むという行為と文字との組み合わせがすごく面白かったんです。言葉ってそのものに意味があるからそれを編み込む行為って、ただのテキスタイルよりもより意味が込められるなと気づいたのが面白かったです。他にも、直接的なインスピレーションからできたものもあります。展示会場の中心にある、レモンネットドレスという作品があるのですけれど、これはスーパーのレモンのネットで遊んでいた時にドレスにしたら可愛いいんじゃないかと思いついて。あとは耐久性さえ足せればそのままバックになるのじゃないかとかいう発想から作ったもの。それからステッカー。私は丸とかのシールを実験や工作によく使うのですが、そのシールを体につけられるアイテムにしたら面白いんじゃないかと思ってアクセサリーにしたりしました。そういう直接的な発想から生まれた作品もありますね。

次六:今回の制作を通して編むということの面白さについて気づいてこられたと思うのですけど、粘着質という表現が面白いなと思って。私はどっちかというと編む作業が苦手な方で、完成させたことがないタイプなのですね。マフラーとかも編もうとして・・・

濱田:途中で飽きる(笑)

次六:だから編み終えない。どこかこう同じ行動を繰り返していく作業ってストイックな部分が必要になる作業なのかなと思いますが、そういう作業は得意な方ですか?

濱田:そうですね。繰り返しとかは得意ですね。無理という人もいれば、その繰り返しが心地よくてハマる人も多分いて。私の場合、作品を編む時は形や大きさはこれでいいかとかデザインを考えながら作るので、大してヒーリングのような効果はないのだけれど、繰り返しの作業が単純に没頭できるという人もいる気がします。

次六:同じものではないですが、日本の刺し子も同じように作業を繰り返す布の作り方ですよね。寒い地域で多いと言われますけどそういった癒しの効果というものがある作業なのかなと考えると、コロナ禍で家の中で過ごしていてこういう編み作業をすることで必然的に癒しを求めているのかもしれないと感じましたがいかがですか?

濱田:編み物の技術って洋裁とは全く動き方が違って。洋裁は面積が大きいし、床でパターン引いて生地切ったりミシンに移動したりとけっこう動くのですけど、編み物はじっと座って編むのですごく落ち着く。同じ手芸だけれど編み物独特の癒し効果はすごく感じましたね。

次六:濱田さんは大学でテキスタイルを学ばれていたということですが、テキスタイルにも織りがあったりプリントがあったり色々な種類があります。その中でも編みという部分で比べてみていかがでしたか?

濱田:プリントは好きな技法ですね。織りは面白いのですけれど向いてなくって。織り機が必要だったりと物理的に場所を取るし、染めも設備がいるじゃないですか。染色の手が汚れたり濡れたりする作業も向いてなくて。編みは少ない材料や設備で出来るし場所も取らないので取っ掛かりやすいです。どの技法も面白いから好き嫌いの話にもなってしまうのですけれど。私は普段コレクションを作る時に技法から出発していなくて、そのデザインに合ったテキスタイルを選んで、こういう風にしたいからこの技法が合うねと考える。つまり、デザインと一緒にテキスタイル技法が決まってくるのですけど、編み物でできる表現を探りたくて、技法を編み物だけに限定してその中で出来ることを考えたのが今回の本ですね。

次六:お話しを聞いていて思ったのは、濱田さんは、着るものというものを作るデザイナーであるというところからひとつ飛び出されているといいますか。小さいミニチュアの作品のお話しがありましたが、そういったことをすることで、着るニットというところから作品のニットというところに昇華していっている気がしました。手芸のニットからアート本というところに着地しているのかなと感じました。

撮影:植松琢磨

 

濱田:ニットの本って技法を教えるものだったり、作り方が載っているものですが、今回はものの見方や捉え方とか考えの幅を広げることをしたかった本なので、着られるものであるべきというリミットをはずして制作しました。子ども服をコレクションするのが好きで、服を着るのではなく所有するというのは以前から興味があって、そういう意味では小さいサイズっていうのは理にかなっていて興味深い視点だなと思っています。

次六:今回新しい試み、挑戦があったのですけれど、本はダルマ糸さんから出されています。糸の開発がまずあって、その次に本を出しませんかというお話しがあったとお聞きしたのですけど、今回のような自由な発想を受け入れてもらうまでにはどのようなやりとりがあったのでしょう?

濱田:明確な順番があったわけではなくて「糸や本とかやりませんか?」というお話しをいただいて。けれどその時は「かたちのニット」を制作していた時期だったので、それが終わりかけたタイミングでまずはTUBEという糸を作らせて頂きました。糸から作らせてもらえるなんてとても有難い、楽しい経験で、すごくトリッキーな糸の提案も試行錯誤して実現してくださって。春夏の糸ってニットのシーズンじゃないので売れるものが作れるか不安もすごくあって。変わりすぎてもいけないし、普通じゃつまらないし、そういう意味では面白い糸になったなと。で、本の方は、私の方からプレゼンさせてもらって、これも糸の時のようにトリッキーな内容でしたけれど受け入れて下さって。普通なら糸メーカーさんからこういった本は出しにくいと思うんですけど、試みを受け入れて下さるマインド、起業精神、チャレンジングなことを一緒にやりましょうと言ってくださる理解があったので実現することが出来ました。

次六:展覧会の図録のような写真集のような、でも手芸本である。色々な要素を持った今回の本ですが、振り返りとして島根の展示についてお話しをうかがえたらと思っています。濱田さんのように出版もするファッションデザイナーの方って珍しいと思うのですけれど、販売のための展示ではなく美術館での展示を積極的にされていますよね。島根県立石見美術館で初めて展示を見せて頂きました。その後、同展示をKIITOへ巡回をされていましたよね。デザイナーの方が美術館で個展をされるのはなかなか難しいと思うのですが、美術館へ働きかけてGOをもらうことだったり、本も企画出版としてプロセスを受け入れてもらい作り上げるということをされていらっしゃる。どちらも難しいことと思うのですが、それだけ作品の魅力や濱田さん自身の魅力が買われているのではと感じています。その点はどう感じられていますか?また、展覧会や出版をする意味についてはどうでしょうか?

濱田:ファッションビジネスをやっていた時期を経て、服を作る時には売れることよりも服の面白さを共有したいという思いが強くなったのですけど、それを伝えるメディアとして本の方が伝わり易かったとか、実際に服を着てもらうのが伝わり易かったりとか、展覧会の方が哲学的な事を伝え易かったりとか、何を伝えたいかによってメディアを使い分けているので、いわゆるファッションデザイナーの方たちよりは幅広い表現方法でやらせてもらっていると思います。展覧会の機会を持たせてもらえていることについてはラッキーなだけというか(笑)ファッションデザイナーが、美術館で展示をさせてもらうなんて本当になかなか無いことなので、いただけた機会に対して120%で応えるようにはしています。今回の本のように自由な制作、コンセプトでやらせてもらえることもラッキーですし、ひとつの小さなブランドに展覧会の話が来るということはなかなかないことなので、やってよかったと思ってもらえるように、結果をだせるようにということはいつも心がけています。
次:オリンピックを期に日本のファッションヒストリーを紹介しようと開催された「ファッション・イン・ジャパン展」の展示の一部にも出展されています。こういったところで展示される事もすごく珍しいですし、それだけの作品価値が見出されてきているのかと感じました。


 

濱田:他にも中国の深圳という所で開催された現代アートの展覧会にも、他のアーティストの皆さんに混じって出展させていただきました。ペイントや彫刻の方もいる中で何故か呼んでもらって。

次六:そういった活動が過去にあって今回に繋がっている訳ですが、私は神戸で展示されたとき凄く合っているなと感じました。何故かというと前回は1階の搬入口のようなギャラリースペース、今回は2階のギャラリースペースで展示をされています。今回の会場は特に、神戸らしい洋館の要素が残る会場でベルリンのアトリエの雰囲気に似ている気がしてイメージがすごく繋がりました。今回の展示についていかがでしたか?

濱田:前回の展示会場は空間自体に雰囲気があって、その空間に乗せてもらいながら展示を作ることが出来たのですが、今回は四角い会議室のような部屋。床材も2019年の「THERIACA 服のかたち/体のかたち」の時は、コンクリートの無機質さが使いやすかったのですが、今回は光る艶のある素材でした。まず、光の反射をどうするか、会議室っぽさをどう消していくかということを考えて、カーペットを敷いたり、クッションを置いて寝転びたくなるような部屋っぽさを作ろうと考えました。展示は、高さを出してしまうと作品ぽくなりすぎてしまうので、もっと身近な距離感で見てもらえるようにしたくてべた置きにしました。会場奥のチャコールのカーペットのエリアは、蚤の市のような雰囲気にしたくて、宝探しのように発見する喜びじゃないですけど、面白い発見をしてもらえるような演出にしました。会場に設置した看板の後ろにわざと木材を残しているのですけど、美術館ぽくしないというか、ラフな感じを残したくて。アトリエの作業風景のような小部屋も端材なども使って展示したのがポイントかな。

撮影:植松琢磨

 

次六:濱田さんが考えられた展示構成や並べ方なども楽しんでいただけると思いますが、今日のお話しを聞いて作品を理解された上で見ていただくとまた更に面白いのかなと。

濱田:展示会場にはキャプションをつけていなくて、それは本にも通じるのですが、説明して納得してもらうというよりは、自分で感じて何かを発見してもらいたいなと考えています。一回展示を見た後に本のテキストを見て、また展示を見てもらうのも面白いかもしれませんね。

次六:展示を通して今回難しかったところ、やってよかったところはありますか?

濱田:難しかったのは、本として面白く見えることと、展示の空間を面白く作る作業が全く別もので、本の時に作品は出来ているはずなのでそれを陳列すればすぐじゃんと思うけれど、本で見せるのと空間で見せるのが全くというほど違い過ぎて。本の製作をしながら、同時進行で全く別のアイデアをまとめないといけないような大変さがありました。でも、それぞれ違った効果があって空間に入って体験するというのは本では出来なかったし、そういう意味ではどっちも同時にやらせてもらってより深く伝えられることが出来たかな。そこが面白かったですね。

次六:今回はニットですけど、作品として作るものというのには着られるもの、身につけるものというのが最終形態としてあるので、ご自身の肩書きをファッションデザイナーとおっしゃっているポイントかと思うんのですが、そこへのこだわりはありますか?

濱田:会場からの質問で丁度いいのがありますよ。「やはり最終的にはある程度実用性が大事でしょうか?」。
私が服を選んでいるのは、やっぱり着れる・着られるというところ。他のペインティングや彫刻などのにはない、身につけられるという作品の形態が私の中でものすごい面白いと思っていて。実用性が必要かどうかは良し悪しではなくその人がどうしたいかでいいと思うのですけど、私が表現したものを、着る人がどう着るかによって、またその人の表現にもなるというところが面白い。昔アートのようなものをやっていた時に、作品は展示で見せてかた、終わった後は倉庫にしまうというのが凄く悲しかったんですよね。だから身につけられる、使えるということの面白さというのは私には必要なのだなと思って、着られるもの、使えるものに落とし込んでいることが多いです。

次六:そこに関わるのですが、大学でテキスタイル勉強されてからファッションの会社に就職して企画などをされているなど、れまで色々なフィールドで経験をされていますよね。その後、個人でブランドを立ち上げられ、展示会や出版をされていますが、そのあたりのバランスってどのように取られているのか、また、これまでの経験がどのように作品制作に影響をしているのかうかがえますか?

濱田:アートをやっていた時の経験はさっきお話ししました。その後、それとは全く逆のファッションビジネスの方に行った時、それはそれで面白くて、仕事はとても好きだったんですけれど、やっぱり会社だと売れることが一番大事なので、そういうところが自分のやりたいこととちょっと違うなと思って自分でブランドを立ち上げました。それから表現でも実用でもあるような制作スタイルに落ち着いたのだけども、自分でブランドをやっていくにあたって、普通のブランドのように春夏/秋冬の2回コレクションをやると忙しすぎて、出して出してというアウトプットだけになっちゃうというか。インプットや実験をする時間がなかったら、コレクションや流行などから直接的にインスピレーションを受けてアウトプットしてしまう。それを避けたくて、コレクションを年1回にして、空いた時間は舞台衣装や展覧会、本の出版など違ったジャンルでの表現の場を設けることで自分の中でインプットとアウトプットのバランスを取っている感じですね。

次六:会場からの質問に移ります。「ぬいぐるみがうつぶせに置いてありましたが何か意味があるのでしょうか」
濱田:あれは蚤の市で売っているぶさいくなぬいぐるみを買ってきて、そこから色を抽出し、自分が普段選ばない色を組み合わせて作品を作るというもの。ぬいぐるみ自体が可愛いかは関係がないのでそこに目が行って欲しくなかったというのもあって目線をそらすために下を向けて置きました。次は本の質問に行こうかな。

次六:「本の中のスタイリングはどのようなことをイメージして、意識していますか」
濱田:これまでにいくつか本を出していますが、初めての本「かたちの服」では岡尾美代子さんという有名なスタイリストの方にお願いしたんですけど、それ以降は自分でやっています。ドイツで全て撮影しているから感覚の合うスタイリストさんを見つけにくいということ、自分でやった方が作る作品似合ったスタイリングが出来るという理由から全部自分でスタイリングをやるようになりました。意識していることというと、見せたいもの、セーターならセーターがよく見えるスタイリングを心がけているのとファッション写真のように決め過ぎないようにはしているかな。流行最先端のイケイケにはしたくなくて。本は何十年も持って欲しいと思って作っているので、その時の流行りでしか理解できないスタイリングというのはしないようにしています。

次六:「THERIACAの展示や本を拝見する時、作品だけではなくグラフィックデザイナーの選び方も気にかけているように思います。選び方やこの人に頼みたいという方はいますでしょうか」
濱田:感覚が合うというのは本当に大事で、話していて好きなものが似ているとか、話しやすいとか。こういう本にしたいということを一緒になって考えてくれる人、こなし仕事として請けるのではなく、じゃあそれを表現するにはどうしたらいいかを考えてくれる余裕のある人にお願いしたいと思っています。

次六:「アイデアは絞り出しますか、それとも降りてきますか」
濱田:どうだろう。降りてくることもあるけれど、降りてこない時は、紙の前でペンを持っていても始まらないので、とりあえず手を動かすようにしています。何かしら作ったら、そこからじゃあもっとこうしようというのが自然に出てくる。展示の場合も同じで、現場に行って空間を見て、そこにアイテムを置いてみれば一瞬で展示のアイデアが決まるのだけど、今回のように私が海外にいて、写真や映像でしか空間を見れない場合は頭で考えるしかないので難しかったです。展示の場合は図面をみて想像で展示アイデアをまとめていかないといけないことも多いけど、服とかは布を触って作っちゃうのが一番早いですね。

次六:「今回の展示を終えて、次制作はどこに向かっていますか?今濱田さんの中で何か一番ホットですか?」
濱田:ニットの本が続いたから、ご存知の方にはバレていると思うけどコレクションをしばらくやっていないのでコレクションを作りたいというのもあるし、今回ニットの本をやって、ニットって洋裁よりもハードルが高いんじゃないかと思ったりもしていて。作りたいけど作れない人の底上げというか作る楽しさを知って欲しいから、その簡単なステップになるような本なのか何なのかわからないけどやってみたいなとか。あまり先のことを考えずにやっているので自分の向かう方向性や興味が降りてくるのを待とうかなという感じですかね。

次六:「今回の滞在中にも新たな制作をされていますか?日本とベルリンのアイデアの発想の違いはありますか」
濱田:桜を何十年も見ていないので、今回は桜の時期に絶対帰ると気合いを入れて日程を決めました。今は滞在5週目なんですけれど、展示の後に滞在するというより展示が終わったら直ぐ帰るスケジュールだったので、展示が滞在の最後にあるから桜を見に京都に行ったけど展示のことが気がかりで、これを成功されることが大事だったので他の制作をしたり休憩したりは出来なかったかな。日本とベルリンのアイデアの発想の違いは、日本にいると職業病だと思うんですけど流行りが見えちゃうのでちょっと距離を取りたいというのはありますかね。これが日本で流行っているのだと日本にいたらそれがカッコイイと思っちゃう。ベルリンの方が、自分が何を面白いと思っているかとか、世間の感じに流されず自分と向き合える感じはありますかね。

次六:「赤色は好きですか」
濱田:好きですね。昔から何でかわからないけど好きですね。

次六:「学生の間にしておいた方がいいことは何ですか」
濱田:これって決めてそれだけをやるというよりは色々やってみることじゃないかな。私は大学時代染織科だったのですが、やっぱりテキスタイルありきで制作を求められるんですよね。でも本来、何かを表現したい時に、ペイントでも立体でも彫刻でも何でも良いわけで、テキスタイルを必ず使うという前提で出発するのは自分の可能性を狭めてしまうんじゃないかという思う。もちろんテキスタイルが一番あっている表現方法ならいいんですけど、学生の間は色々やる時間と思ったらいいのじゃないかな。

次六:「学生の頃テキスタイルに憧れて、編み物が好きになったというお話しがありましたが、子どもの頃に没頭したものはありますか」
濱田:小さい頃から作るものは全体的に好きだったかな。ペーパークラフトみたいなものが好きだったり、ビーズみたいなものが好きだったり。あと環境は大きかったと思います。両親は二人とも何かを作る人だったので、必要なものがあったら買うというより作るという家だった。でも兄はそっちには行かなかったから環境だけではなくてやっぱり私も作るのが好きだったのだなという気がしますね。

次六:「大学時代はどんな制作、生活をしていましたか」
濱田:今も学校が24時間開いていて使用が許されているのかわからないけれど、学生時代は夜学校に来て夜通し制作して朝になったら帰る、というのをやっていました。昼夜逆転していましたね。京都市立芸術大学の時は今思うとのんびりしていたなと思いますね。もっと有効に時間を使って4年間の間に色々できたんじゃないかと。就職してその後辞めてからロンドン芸大に行ったのですが、何がやりたいかがクリアになってからの大学での時間の使い方はやっぱり凄く充実していました。最初の学生時代はしょうがないよね(笑)のんびりしちゃう。まあそれも必要な時間だったのかもしれませんが。

次六:「何故ドイツで暮らしているのですか?ドイツで暮らすいいところを教えてください」
濱田:不便だし、サービス悪いし、いいところはあんまりないんですけど、やっぱりさっき言ったみたいに日本にいると日本の流行りが見えちゃうというのが一番。自分のアイデアが自分から出てきたものなのか、流行りに影響されたものなのかが分からなくなっちゃうところがあって。不便なところで生活して自分を見つめ直すじゃないけど、落ち着いて制作できるところがベルリンの魅力かな。でも、ロンドンだと東京と似ていて流行りがあって、ベルリンは丁度いい田舎感であまり何にも影響されずにみんなマイペースでやっているのが丁度いいのかもしれない。

次六:ファッション都市としてはイギリスの印象が強いですが、イギリスとの比較はどうですか?イギリスで大学に行かれてからドイツに住まわれています。
濱田:イギリスは東京と似ていて、雑誌の数も多いし、本屋に行っても美術館に行ってもクオリティも凄く良くて、ものづくりをするには凄くインスピレーションが豊富そうなんですけど、その人の向き不向きで。私の制作スタイルはある程度自分に向き合って、その為の時間は誰も影響されず引きこもれるところがある方がいいんです。東京もイギリスも呼ばれたら展示に行かないといけないような人付き合いとかそういうのを求められるけれど、それがベルリンには無い。

次六:「ファッションデザインの面白さを共有したいという思いから、本の出版や展示をされていると聞き、ぽかぽかした気持ちになりました。ベルリンでも同じような活動をしているのでしょうか」
濱田:今お話しした理由でベルリンに来ているのだけれど、似たような気持でベルリンに来ている人もいて。イギリスにいた時は働くならシャネルとか、トップブランドで働きたいみたいな考え方の人が多かったのだけど、緩いペースで自分の制作をしたいという人がベルリンには集まっているから、そういう意味では感覚が合うので色んなクリエイターとは友達です。答えになっていないね、ドイツではあんまり発表などはしていないですね。今後はしていきたいです。

次六:「TUBEの糸で子ども用の帽子を作るといくつくらい糸が必要でしょうか」
濱田:TUBEキットにある糸玉の数を調べてみると、これぐらいの糸でこれぐらいのものが編めるというのが目安として分かるかもしれないです。

次六:「本を作る中で一番好きな作業はどれでしたか」
濱田:本を作る時はいつもそうですが、作品作るのが一番好き。で、どんな本にしたいかはまた別の作業で、グラフィックデザイナーのような視点でどんなサイズの本にしようとか紙質とか、どういう撮影にするかとか、今回はフラッシュをたいて撮影したんですけど、フラッシュをたくかとか、シチュエーションは?白い背景で撮るか街の中で撮るのかみたいな、そういう案出しの作業も面白いんですけど、専門外ではあるのでやっぱり服そのものを作る時が一番好きですかね。

次六:「何を作っている時が一番楽しいですか」濱田さん、お料理はするのですか?
濱田:食べないといけない、栄養をとらないといけないから料理するっていうレベルです。仕事の種類によって作業内容は変わってくるけど、今回なら編み物のスワッチを編んでいる時間が一番楽しかったですね。試し編みの小さな編み地をスワッチっていうんですけど、完成品になる前のこの小さい世界で「あ、かわいい」って言っている時間が一番楽しいかも。
次六:それが本からも伝わります。これ可愛いって思っているのだろうなと(笑)

次六:「ファッションブランドが大きくなっていった過程があれば知りたいです」
濱田:今も大きくはないのだけれど、でも世の中にでる第一歩というのが学生さんには想像しにくいですよね。私も京都で学生をしていた時は、どうやって世の中に知れ渡っていくのだろうというのが方法論として分からなくて全く想像できていなかった。今やっているTHERIACAというブランドはラッキーとしか言えなくて。装苑という雑誌の次の新人20人みたいな所になぜか載せてもらえい、それを見たセレクトショップの方から連絡をもらったり。あと、東京のユトレヒトで展示をしたのが初の展示会だったのだけれども、その時もバイヤーさんが来てくれてうちで取り扱いたいというお話しをいただいたりしました。なので、やってきたことと言えば機会をもらったら120%で応えていくということだけですね。それで少しずつ信頼を得ていった感じです。今回の展示の話を頂いて、やっぱり本も展示も私一人では成り立っているものではなく、色んな人に関わってもらっているのでその責任感というか、いいものにしないといけないというプレッシャーが凄くあるんですけど、展示アイデアが出来上がる前からプレスが出て色んなところに情報が載って、チラシも出来ていくのでそれに負けない内容にしないと!という感じ。(笑)
次六:意外と恥ずかしがりやですがしゃべる時はしゃべってくださいますよね。YOUTUBEをされていると伺いビックリしました。ぜひ皆さん検索してみてください。
濱田:ACS / Asuka Creative Studioというチャンネルです。ベルリンにいると、コロナ禍ということもあって人と会うことが全く無くなって、しゃべりたいことはあるけど日本語で誰かとがっつり話すこともなくなってしまって。誰か聞きたい人が聞いてくれたらいいなくらいの気持ちで欲求を満たすために始めました。

次六:「今のお仕事をするターニングポイントを教えてください」
濱田:前の話とも重なる部分もありますが、ビジネスとしての服を作るということに躓きがあった。それはそれで楽しかったのだけれども。で、アートでもないビジネスでもない自分の好きなものを作りたくなったというところですかね。思い切って仕事を辞めて留学したことが一番大きな変化だったかな。
次六:やっぱり悩まれましたか?
濱田:会社には結構長く勤めていて面白かったから辞め時が分からなかった。あのままやっていても楽しかっただろうなとも思うし、今戻れと言われても楽しくやれる気がする。実はイギリスで卒業した後にまた就職をしようと思っていたんですよ。でも、なんかベルリンに来ることになって自分のブランドを立ち上げることになって、意外となりゆきにまかせてきました(笑)

次六:「日本で一番好きなどきどきするところは」
濱田:いいところいっぱいありますよ、電車がちゃんと来るとか、荷物がちゃんと届くとか(笑)でもやっぱり伝統かな。お祭りだったりその時に着る衣裳だったり、工芸品だったり。今ってグローバル社会なので、今作られるものは世界中で似たような感じになってしまうけど、インターネットが無かった時代に作られたものの独自性ってすごく美しいなと思いますね。
次六:ヨーロッパでも珍しいお祭りがあって衣裳が面白いというお話しを伺ったことがありましたが、最近はどちらかにいかれました?
濱田:イタリアのサルディーニャ島へ行きました。今まであまりビーチリゾートに興味がなくて行くならパリとかカルチャーがあるところ。本屋で面白いもの見つけたりするのが好きだったのだけど、今回はコロナで家に閉じこもるのに飽きていたこともあって、海とか自然のあるところに行こうと思って。海は勿論きれいだったんだけど、サルディーニャ島の田舎の街にしっかりした民族衣装の博物館があってそこが面白かったですね。変なところにスリットが入ったジャケットとか、鈴が無数についた毛皮の衣裳とか。織物とかも多数展示してあってかなり楽しめました。

次六:「ベルリンのおすすめスポットはありますか」
濱田:ドイツ料理はおすすめできないですね。肉とポテトとザワークラウト。それが豚肉なのか牛肉なのかソーセージなのかの違いくらいで。でも、ドイツは環境意識が凄く高くて、スーパーでも大抵ビオのものが買えるので、そういう意味では料理の仕方は別として素材は信頼できる。手作りするのが好きだったら手芸材料店。東急ハンズみたいな店もあって、手に入れられるものが日本と違うので面白いかも。
次六:ヨーロッパ全体は冬が長いので鬱になる人が多いですよね。その間にハーブティーとかバスソルトとかが普及するのでしょうか。ファッションの傾向で何か感じられますか?
濱田:ベルリンは楽ちんなファッションが多いかな。イギリスは伝統があるのでおしゃれをする時にはジャケットに革靴履いて、みたいなものがあるんですけど、ベルリンはそういうものが無い。どこに行くにもスニーカーみたいな。前に働いていたBLESSというブランドはベルリンとパリに事務所があってコレクションの時にはベルリンのチームもパリに行って一緒に作業するんですが、ベルリンから来る人とパリの人とでおしゃれ度が全然違っていてベルリンチームやばいと思いました(笑)

次六:「材料はドイツ製のものですか」
濱田:EU内は税金がかからないので材料は色んなところから入って来ます。生地はイタリアが強いですね、面白いものがある。ドイツの生地を使うこともあるけれど、イタリアの方が多いかも。糸メーカーはドイツに可愛いメーカーがあるので毛糸はドイツのものが多いかな。

次六:「コロナ禍で何か変化はありましたか」
濱田:せかせかしなくても自分に向き合う時間が取れるので最初は良かったんですけど、1年経つと飽きましたね。以前はダンスシアターとかに行っていたのですけど、美術館とかは予約制で入れるようになっていきましたが、舞台・演劇・ダンスなどの公演はなかなか再開ができなかったのでそういうところからインスピレーションをもらう機会は減りましたね。

次六:「ファッションデザイナーとはなんですか」
濱田:ファッションデザイナーと言ってはいるけど、傍からはそう見えてないのじゃないかなという自覚があるのですが、私にとってはただの肩書きでですね。服を作る仕事という意味で。ショーとしてコレクションを発表するようなファッションデザイナーもいれば私のように展示で表現するデザイナーもいるし、どう見せたいかはそれぞれ合っている方法でいい気がする。

次六:「ドイツで生活していて、普段どういったものを食べますか?ドイツと日本で時間の流れ方の違いはありますか?ドイツの方がゆったりしていますか」
濱田:そうですね、ゆったりしていてたまにやばいと思います。なので年1回くらいは日本に来てこんな感じだったというのを思い出さないとゆっくりし過ぎるというか。日本の忙しさも私は全然好きです。普段は普通に日本食を作って食べていますね。アジア食材店で買い物しています。

次六:「いつが自分のブランドを立ちあげたいと考えています。濱田さんがブランドを立ちあげたきっかけやブランディングで大切にしていることを教えて頂ければ嬉しいです」
濱田:一度働いた後にもう一回大学に行って、在学中にブランドもやっていました。なんとなく、今思うと自分でブランドをやるならと考えを持って大学に行っていた気がする。学校の課題も全部自分のブランドと思って取り組んでいたところから、学校の先生や友達からこれを作って欲しいという話をもらってじゃあブランド名をいよいよ決めないといけない、ロゴとかどうする?というところから半ば強制的にブランドを立ち上げることになりました。大事にしているのは自分が面白いと思えるか、自分が着たいと思えるか。自分からかけ離れた制作はしていないかもしれない。売れるからという理由が入ってくると、多分買う人にも売れそうだから作っているというのが分かっちゃう。だから自分が面白いかどうかを判断基準にしています。

次六:似たような質問はまとめてさせていただきましたが、会場から頂いた質問にすべて応えさせていただきました。最後になりますが、濱田さんはやっぱり今の作品作りを楽しんでいるというのがすごく出ている方なのかなとお話しを聞く中で感じました。この時代、先はどう考えても難しい世の中ですが、そういう時に人の心にすごく響くというか入り込んでいく力があるのではないかと思いました。元気をもらえるのかなと思います。今後のことについて、何となくどのようなことを考えられているのか、クリエイションでどういうことをしようとか考えていることがあれば聞かせていただければ。

濱田:今を楽しんでいると言っていただいたのですけれど、なんとなくメディアをいろいろ変えてみたり、コレクションを一旦休んで他のことやってみたりとか、その時々で興味あることやものをやっていて、手芸や洋裁本を待ってくださっている方も多いと思うのですがその時一番興味あることが一番伝わりやすいのかなと思っています。自分も熱を持って取り組めるし。今は、展覧会に全力を出し切ったところなので、次何をしたくなるかまだ分かんないかな(笑)

次六:展示会をして欲しいとか、買いたいという方もいらっしゃると思いますが、創作は続けられるので皆さん気長に、次を楽しみに待っていただきたいと思います。

濱田:発表の仕方が展示会なのかネットでできることを考えるのかまだ分からないですが、手を止めるということはないかなと思います。

 

 

撮影:植松琢磨

 

THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti 」展 開催概要レポート
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