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2016/2/10

イベントレポート

神戸スタディーズ#4 「”KOBE”を解す―せめぎあいにみる神戸の都市史」第1回目 レポート

2016年1月27日(水)

神戸スタディーズ#4 「”KOBE”を解す―せめぎあいにみる神戸の都市史」第1回目レクチャー「概論:近現代神戸 都市(まち)のなりたち・人びとのくらし」を開催しました。

「神戸スタディーズ」は、さまざまに語られる神戸というまちのイメージをあらためて考えるため、多様な専門分野の方を講師に迎え、これまでなかった視点で神戸を見る「神戸学」をつくる試みです。デザインセンターではなかなか扱われることのない、地形、地質、社会学などの視点から、自分たちの足元の土地を見つめることで、デザインやアートを考えるための土台にしていこうというものです。
レクチャー、フィールドワーク、トークセッションの全3回で構成する今回は、近現代神戸の都市史を専門とする、研究者の村上しほりさんをお招きして、まちの痕跡や人びとのつながりを手がかりに、神戸を解(ほぐ)してみます。

第1回は概論です。村上さんが8ページにわたる詳細なレジュメを用意して配布してくださいました。そもそも都市史って何?というところからはじまり、レジュメと、豊富な資料画像のスライドとともに、近現代神戸を丁寧に概観していきました。

レジュメは、今回の神戸スタディーズのタイトルに含まれる「せめぎあい」を連想させ、都市史のおもしろみに引き込まれるテキストから始まっていました。

―「都市」とは多様な人びとの居住の場である。その変化は激しく、あっという間に更新されて、気が付いた時には前の姿を思い出せないこともある。さまざまな人びとが集まり暮らすということは、新たな交流が芽生えたり、各人の利害が衝突したりする可能性を抱えている。― (レジュメより)

レジュメとレクチャー内容からいくつかピックアップします。

「神戸イメージ」・・・戦後から現在までの観光案内や、神戸を語ったエッセイを参照し、記述されるさまざまな「神戸」を見ていきました。観光案内には「国際的な観光都市」「オシャレで異国情緒あふれる」、1965年の陳舜臣のエッセイには、駅前に密集する木造家屋やバラック飲食街が描かれています。

「戦後、災後のまち」・・・村上さんが特に研究されている闇市については、とりわけ時間が割かれました。
その発生と変容、報道のされ方、語られ方(社会政策学者か、社会学者か、ジャーナリストか。批判的な見方と評価する見方で対照的。誰の目線で描かれるかによって異なる印象を与える)。村上さんは戦後1945年~50年の神戸新聞地方面を通読して復興の推移を調べたそうです。合わせて居酒屋、飲食店の推移についても見ていきました。

「進駐軍と神戸のまち」・・・なかなか語られることのない、戦後、進駐軍が占領していた時期についても丁寧に調査されています。
イースト・キャンプの敷地確保のために、葺合区の対象地域に居住する132戸のバラック生活者が、1週間で立ち退きを要求されたことがあるそうです。

接収時のKIITO(旧生糸検査所)についても興味深い資料を示してくださいました。
この建物は、1階は室内運動場としてバスケットボール、バレーボール、テニスなどの設備があり、読書室、音楽・映画も楽しまれていたそうです。「レッド・クロス」という喫茶スペースがあり、セルフサービス式で、無料でコーヒーやドーナツが楽しめたとか。1945年10月28日の神戸新聞地方面で6分の1ほどのスペースで写真付きで紹介されていました。
1階の地下へ延びる階段(現在は埋められている)の梁には、かなり薄くなっていますが「OFF LIMIT」「SPECIAL SERVICE OFFICER」というサインが残っています。(来館時に探してみてください!)

近現代の神戸の歴史というと、広く関心を集めるテーマなのか、参加申込も多く、当初の定員よりも多くの人数を受け入れました。
お馴染みと思われるテーマであっても、なかなか目を向けられることのなかった、占領期や闇市についてを村上さんならではの丁寧なリサーチにもとづき見ていく時間はとても興味深いものでした。開催後の来場者アンケートでも、「知らなかったことを知ることができた」「見た事のない資料や情報が見られておもしろかった」といった感想が複数見られました。

モデレーターを務めたセンター長の芹沢高志からは、最後に村上さんのレクチャーの中で出てきた「港にはいいものも悪いものも入ってくる」、「闇市は誰の目線で描かれるかで異なる印象を与える」といった印象的な言葉を取り上げ、神戸にはイメージの中で作り上げられた一元化した極端な像がある、過度に思い込むことで偏った見方が出てくるが、そういうところを村上さんのような若い研究者が冷静な視点で見ているというのがおもしろい、とコメントが。今回はレクチャーに比重を置いたので、二人のトークセッションは第3回の楽しみにして、この次の第2回は、三宮を対象にしたフィールドワークを行います。

神戸スタディーズ#4 「”KOBE”を解す―せめぎあいにみる神戸の都市史」
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