2018/4/6
イベントレポート
去る3月20日(火)に、「+クリエイティブゼミ vol.27 まちづくり(公園)編 「仮設のピザ窯に続く、まちの公園をみんなの場所にするためのプログラムを考える」」(公園ゼミ)の最終発表会が行われました。
今回は、前回、前々回と行ってきたグループワークの成果として、グループごとに、できあがった提案についてプレゼンテーションを行います。これまでの「+クリエイティブゼミ」では、プレゼンテーションの後で講評を行ってゼミを締めくくっていましたが、今回は各グループの提案に対して参加者が意見や改善点を出して、それをもとにして提案をブラッシュアップしてもらおうという試みを行いました。プレゼンテーションのスタイルも、報告するグループのテーブルに参加者が集まってくる形になりました。実現には何が必要か、どうすれば継続ができるかも視野に入れた、質の高い提案をめざします。
短期間のゼミにもかかわらず、どのグループも多くの事例を集め、そこからアイデアを出し合い、自分たちの課題を見つけて、それに対する提案を作る作業を行ってきました。それぞれが想定する利用者に対して、公園を通じてどんな働きかけができるか、今日はそれを見える形にします。
各グループの提案の内容や、それに対する意見などを紹介していきます。
「高齢者」
「高齢者」チームは、自治会から街区公園のへの働きかけが少なく、近隣から身近な公園が活用されていないこと、そうした状況で高齢者が公園にアクセスできていないことを問題として捉えてきました。したがって、高齢者のニーズを満たすような試みを公園で実現することをめざしています。
高齢者チームの発表テーマは「高齢者と公園を考える」です。自治会がなかなか公園に対して働きかけができない一方で、自治会は地域のつながりや盛り上がりを作る機会を望んでおり、色々なイベントを行っている。そこに協力する形で公園を継続的に活用する機会を作っていきたいとのことです。
そうした自治会と協力して公園を活用する中で、高齢者にとっても公園が使いやすくなる機会を設け、一緒に公園を使いこなすノウハウを掴みながら、高齢者が抱える問題を解決する仕組みを確立することも目指します。
特に退職後の高齢男性が、地域との交流が希薄だったり、外に出られず健康面に不安を抱えやすかったりすることに対して、公園で何かをするために出ていくという機会を作り、高齢者がいままで発揮できなかった能力を披露できる場を作り、日常的に高齢者が公園を通じて活躍する、そのための具体的な方法として、「高齢者」チームは「料理」と「将棋(ゲーム)」を提案しました。
「青空クッキング団」のように、高齢者が、よりハイレベルなこだわりのある料理を練習してふるまい、特に地域の防災訓練の場で、終わった後で「究極の炊き出し」として披露する。多くの人が集まり、多世代で交流する場になるし、高齢者のスキルを活かす機会にもなる。防災のインフラとして公園が活かされる機会を利用して、幅広い人が交流し、地域を豊かにする場を、高齢者が核になって作ることになるわけです。そうした場や機会を、日常の活動・交流にも活かせないか、と考えているようです。
また、兵庫区の湊川公園で高齢者が将棋を楽しんでいることからヒントを得て、「将棋青空道場」のように多世代に広げることができないかとのことでした。子どもたちとの距離を縮めるために、子どもに教える機会を設けたり、大きな盤でわかりやすく見える形にしたりすることで、ボードゲーム的な楽しさ、わかりやすさを演出して、高齢者、あるいは子ども「だけ」にならない仕組みを盛り込んで、公園を通じて地域へのアクセスしやすさや、コミュニケーションを促進できないかとのことでした。地域に根ざした継続性、公園を活用することによる波及効果を、「高齢者」チームは重要視しているようです。
フィードバック
「高齢者」チームの提案に対しては、完成したイベントに参加してもらうのではなく、計画・準備段階から協力してWSするなどの交流があると良い、世代間だけでなく、高齢者同士の交流も促進することで、公園での活動を発展させていくこともできるのではないか、公園の立地や規模、形などの制約を活かして、ご当地らしい遊びを作ってみるのも良いのではないか、という意見が出されました。
「社会人」
「パークリビング構想」と銘打った提案で発表に臨む「社会人」チーム。「社会人」チームは幅広い「社会人」うちの「20代」をターゲットにして、そうした人たちのニーズとは何かを考えてきました。20代の人たちは、仕事で忙しく自分の時間がない、そもそも公園に行かない、そういう人が必要とする公園とは何か、公園を必要不可欠なする仕掛けがあるのか、模索してきました。
そうした「20代」の「仕事以外」に、このチームは着目しています。ゆっくり昼寝できる、気が向いたら運動もできて、プライベートな空間にいるように広々とのんびりとリラックスできる。でも、それを実現するには、若者が普段持っている自分の空間はとても狭い。一方で公園はそれなりに広さを持っている。公共の空間とプライベートな時間、空間を両立する、リビングのような居心地の良さを実現する、相反するような要求を具体化することが、このチームにとっての大きな課題です。
そんな難題に挑んでいた「社会人チーム」が着目したのが、メキシコのデザイナー、エクトル・エスラウェとイグナシオ・カデナによる「Mi casa, su casa.(私の家は君の家)」でした。家の形をしたフレームが公園に並んでいるというもので、インスタレーションとしても有名なものです。
遊具のように役割が決まっているわけではないし、美術作品だから触れてはいけないというものでもありません。むしろ、フレームだけしかないので自由な使い方ができるし、使うことで活かされる開かれた作品でもあります。置かれている場所へ、人びとを迎え入れる、そんな仕掛けと言えるかもしれません。複雑なものではなく、道具としても使いやすく、持ち運びしやすく、扱いも容易です。
ひとりを楽しむこともできるし、複数人で何かをすることもできる。新たに何かをするきっかけにもなるかもしれません。家にいるのとは異なる、魅力的な日常を送ることができるツールです。何よりも、公園にアクセスし、みずから公園を活用する機会を与えてくれるところが、このツールの稀有なところだと言えます。
こうした仕掛けの公園での展開を実現する方法として、建築家やデザイナーと積極的に協働し、公園や地域、自治体に働きかけるということを「社会人チーム」は提案します。また、まずはイベントとして開催、次に曜日ごとのなど日を限って実施、などと段階を踏んだ上で常設化して、さらに個人単位でツールを運用していくことで、恒常的に継続し、かつ各地の公園にも広げられるものにしたいと、「社会人チーム」は考えているようです。
フィードバック
上記の提案に対しては、魅力的なアイデアだが街区公園に合う形で展開できるか、何らかの工夫が必要なのではないか、あるいは、壁のない空間なのでプライベートの空間として完結するのか、それとも利用者どうしのコミュニケーションが発生するのか、どちらかのバランスが重要なのではないか、近くの公園で地域と共同で実験をしてみたら、違う展開の仕方も見えるのではないか、家の形だけでなく公園ごとに適した形にアレンジすることもできるのではないか、という意見が出されました。
「ファミリー」
いつもたくさんのアイデアがホワイトボードに並んでいる「ファミリー」チームが提案するのは「遊びかたログ」です。前の2チームが実際に公園でアクションすることを提案したのとは異なるスタイルの提案となりました。WEB上に公園での遊び方が集まるコンテンツを設けるというものです。
「ファミリー」チームは、街区公園は居住地にとても近いために、かえって何かするにはハードルが高く、公園が活用されるに至らないという点を問題視していました。そこで、何があれば公園に出てみよう、遊んでみようというきっかけや、近さが活かされるきっかけになるのか、それがチームの課題でした。その結果たどり着いたのが、近くの公園で遊びたいと思う人の受け皿としてのWEBサイト「遊びかたログ」の設置です。
「遊びかたログ」は、「PARKFUL」のような公園の情報を集積・発信しているサイトの中のコンテンツとして設けられることが想定されています。従来は場所についての情報がメインとなっているのに対して、公園で何ができるか、公園に行って何をするかのアイデアなど、活用のしかたがメインになっているのが「遊びかたログ」の特徴の1つと言えるかもしれません。場所の紹介に活用のしかたが組み込まれて、公園に応じた「活用のしかた」を提示できることも特徴になりそうです。
「遊びかたログ」には、様々な公園での遊びの経験やアイデアが集められます。それを検索する形で見る側が遊び方を調べることができます。また、遊びの経験やアイデアに対して、公園の立地条件や、利用状況などの情報も加えることで、近くにある公園に応じた利用・活用のしかたにアクセスすることができます。
また、遊びをしているプロモーション動画を配信したり、あるいは実際にやってみた様子を動画で投稿してもらったりすることで、新たに遊びのアイデアが生まれ、ブラッシュアップされ、ヒントとして活用されることも期待できます。
情報を得るだけでなく、遊びの情報が蓄積されて遊びが変化したり、新しい遊びを考える機会となったりと、サイトじたいの機能も広がっていったり、色々な展開が考えられそうです。街区公園の活用するためのインフラとも言える、意欲的な提案です。
フィードバック
「遊びかたログ」の提案に対しては、公園で遊んでみよう、調べてみようというところにたどりついてもらう仕掛けが必要なのではないか、ワークショップをするチームを結成したり、色々な公園で遊びをしたりしてみて「遊びかたログ」に関わるコミュニティを広げて行くことが必要なのではないか、ファミリー以外にも利用できるものだといいのではないか、といった意見が寄せられました。
「高校・大学生」
「高校・大学生」チームは「高校生」をターゲットにしぼって、学校と関わりながら何かができないか、提案を考えてきました。今回提案するのは「移動式カフェ」です。
現在の高校生にとって魅力的なこと、実際の職業にかかわることから、高校生が公園に関わる機会をつくることができないか、また、公園に行くことが高校生にとってさほど日常的ではないことを逆手にとって、公園に行くことが高校生にとって特別だと感じられることが、公園に関わる機会を作る上で重要ではないかと考えて、「高校・大学生」チームは提案を練ってきました。
「高校・大学生」チームは、神戸市の人口が都心部以外では減少傾向にあること、特に若年人口にその傾向があることに着目します。今回ターゲットとしている「高校生」と地域とのつながりを作ること、そのために「高校生」に地域に目を向けてもらうことは、人口減少への対応として求められていることでもあります。街区公園は高校生の目を地域に向けるときの核になり、高校生を中心にして地域の人が集まって何かをするときの拠点にもなるわけです。
一方で、高校生を中心にすることにはマイナス面もあります。何らかの即効性あるわけではなく、すぐ結果が出るわけではないし、計画通りに進まない可能性もあります。これに対して、このチームは地域との協働を重視することで、マイナス面を打開できると考えています。そのツールとして「移動式カフェ」に行き着いたわけです。
制作と運営に建築家やデザイナーが関わり、さら食のプロがそこに加わります。実際に運営・運用していくには地域の人の協力も必要です。そうしたフォローする体制を整えた上で、高校生が公園でカフェを運営していくことになります。制作側にとっては、高校生に仕事を知ってもらい、地域での認知も広まり、協働を通じて仕事も広がる、といったメリットがあることも考えられます。街区公園を拠点に高校生が自ら特別な機会を地域にもたらし、高校生にとっては非日常を経験する機会にもなります。地域の人が集まることで、地元の活性化にもつながります。
このプロジェクトでは、学校の関与も重要になります。近年では地域課題の解決を課程に盛り込む高校もあるとのことで、そうした授業の一環として「移動式カフェ」のプロジェクトを行うことで、学校にとってもより地域に寄り添って活動することになります。高校生にとっては、地域のことを知り、職業を体験する機会にもなります。
「移動カフェ」の展開にあたっては、このプログラムを「ブランド」として行っていくことで、神戸市だけでなく、他の地域へも広げていくことが可能だと考えているとのことです。
フィードバック
「移動式カフェ」の提案に対しては、地域によって条件が異なるので高校生が地域に何が必要か自分で考えることができるといい、移動式カフェも高校生たちが自分たちの味付けができるツールだといい、どこかの地域でモデルケースができるといい、年に1回、街区公園に集まっていた高校生たちが集まってフェスをする、売上をどうするか、どう伸ばす、どう回すまでを高校生で考られるといい、公園の近くに高校がない場合はどう地域にはたらきかけるのか、といった意見が寄せられました。
4チームの提案とも、自分たちの想定するターゲットに即して、どうしたら公園が活用されるのか、よく考えられたものでした。人を集める手段、集まる場所だけに公園の機能を切り詰めるのではなく、地域に近いという街区公園の特徴を活かして、地域の日常やそこに住む人たちの暮らしの質を高めたり、より豊かにしたりするような「インフラ・ストラクチャー」として、公園を重要視しているという点が各チームに共通していたようにも思います。
実際に現場でのトライアルが実現できるようにめざしていきますが、どれも実施してみると面白そうなものばかりです。トライアルについては、めどがつきしだい、お知らせいたします。
「+クリエイティブゼミ vol.27 まちづくり(公園)編 「仮設のピザ窯に続く、まちの公園をみんなの場所にするためのプログラムを考える」」
これまでの公園ゼミ
+クリエイティブゼミvol.12 まちづくり編 これからの公園のあり方について考える。
+クリエイティブゼミ vol.12 まちづくり編 特別版 KIITO×Collective Dialogue「これからの公園のプロトタイプを試行する」公開セッション
+クリエイティブゼミvol.18 まちづくり編 これからの公園のあり方について考える part.2「公園×健康」
+クリエイティブゼミ vol.23 まちづくり編 公園と地域をつなぐ仕組みを考える。