2017/11/10
イベントレポート
2017年10月21日(土)
「カレーライスを一から作る」先行上映+トークイベントを開催しました。
元町映画館との連携企画として、「つながる食のデザイン展」の開催期間中に、同じ「食」を扱うドキュメンタリー映画「カレーライスを一から作る」を映画館での上映に先駆けてKIITOにて上映、さらに関野吉晴さんと前田亜紀監督、同時期に展覧会を開催する石塚まこさんの三者でトークを行いました。
映画は、武蔵野美術大学で行われた関野さんのゼミを追いかけたもの。コメも野菜も香辛料も、タネを入手するところから初めて一から育て、肉も鳥を飼育して屠るところまでを行い、文字通りカレーライスを「一から」作っています。回を重ねるごとにゼミの参加者が減ったり、鳥がうまく育たなかったり、育てるうちに屠りたくないと言う学生があらわれたり、とさまざまな壁にぶつかるようすが映像に収められており、いのちとは、食べることとは、を考えさせられる映画です。
KIITOアーティスト・イン・レジデンス招聘作家として展覧会を開催中だった石塚さんも、奇しくも当初は「カレー」が神戸での制作・リサーチのキーワードとして挙げられており、また、作品や、制作過程でつづられるノートの中にも、ものごとの起源や来歴へのまなざしを感じられることから、トークに登壇いただくことになりました。
トークは、前田監督に進行いただき、映画のテーマや撮影前後のエピソード、教育の現状など、さまざまな話題に及びました。
映画ではいのちの話が大きなテーマとして受け取れますが、本来、関野さんのゼミは、いのちが主題だったわけではなく、一からものを作るといろいろな気づきがある、ということがテーマなのだそうです。開催年によって作るものも違うし、参加する学生によって展開も変わってくる。映画になった2年目のゼミで、たまたま屠りたくない、という人が出てきたので、「いのちになっちゃった」のだそうです。
前田監督は、すべてを撮り終えたときに、すごく心に残っていたのが、関野さんの「植物にだって命はある」という、命に対する定義を考えさせられる言葉で、それを一番大事にするように作ることを考えたとのこと。
関野さんに言わせれば、植物も、口の中の微生物も命。ゼミの中で彼らが嬉々としてやっていた、稲刈りやウコン・しょうがの収穫も、それらを殺すことなのに、動物を屠るときだけ、悲壮な顔をする。ほんとうにいのちを奪いたくないと思うなら、抗生物質も飲めない。たくさんの死の上になりたっている社会に生きているのに、そこまで思いが至らない。生態系全体を考えるようにしたい、と。認識が新たになるお話でした。
ゼミの本来のテーマ「ものを一から作る」に関して、関野さんは、みんな一からものを作るということをやっていない、と指摘します。ゼミが開講されている美術大学でも、彫刻科は木の伐採をしたことはないし、テキスタイルやファッションの科でも桑や蚕は育てたことがない。なんでもいいからひとつ、調べるだけでも、それを作ることで何が起こっているか、誰が利益を得ているか、社会が見えてくる。「一から」の過程で学ぶことは本当にたくさんあり、それを経験することで自分の引き出しが増えるのです。関野さんは、この映画は小中学生に観てほしい、このゼミ自体、ほんとうは小中学生がやるものだとよく話すそうです。
しかしながら、現在の日本の教育現場では、センシティブな親も多く、なかなか難しいようです。
学生も、どんどんセンシティブになっているようです。10年前なら「生を全うさせたい」という学生は出てこないだろう、と。
それには、前田監督が、しみじみ思う、と言う、私たちのいま生きている「きれいな、クリーンな」社会-スーパーではお肉もパックに入って、その来歴も、元の状態もわからない、その状態から始まっていると思っている人もいるような、「包み隠されている」状況、も影響しているように思えます。
来場者から、ゼミの学生たちの食生活に変化はあったのか、という質問がありました。食べるものの原材料をよく見るようになったのだそうです。よく知らない材料があまりにも入っているので、とジュースを飲まなくなった学生や、売っている鶏が何を食べているか分からないから、鶏が食べられなくなった学生がいるそうです。
また、関野ゼミ生は、最初はもちろん美術を志して来ているけれど、卒業すると、だいたい第一次産業-日本を底から支える仕事をしていることが多い、というお話が印象的でした。
映画上映は全国で続き、また小学生向けに書籍化もされています。ぜひ合わせてご覧ください。
『カレーライスを一から作る』先行上映+トークイベント(元町映画館 連携企画) 開催概要
『カレーライスを一から作る』 公式サイト
「つながる食のデザイン展」 開催概要
石塚まこ「ちいさな世界を辿ってみると」(KIITOアーティスト・イン・レジデンス2017 報告展) 開催概要