2019/10/8
イベントレポート
9月17日(火)
「+クリエイティブゼミ Vol.32まちづくり編「人口減少時代の豊かな暮らしを神戸でデザインする」」の第7回。いよいよ最終回となるこの日は各班が議論を繰り広げ頭をひねってきたアイデアをアクションプランとしてプレゼンテーションしました。講評は、中間発表に引き続き神戸市都市局の飯塚さん・奥町さん、現在国土交通省から出向中の山田さん、そして、ゼミマスターであるKIITO副センター長永田です。
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A班 土の人
「ちょっとだけ神戸に貢献したい」人の背中を押すシステム
私たちは土の人にフォーカスして神戸市の現状をリサーチするなかで、神戸には地域コミュニティと縁がなく、活動したいと思っていても基盤がないという潜在的な人材がかなりいることを知りました。具体的には、単身者や子どもがいない夫婦、また、学生や転勤族など居住歴が短い人たちです。これまで地域活動にあまり参加してこなかった層の人が活動に参加することは、新戦力増加につながります。こうした人々に共通するのは、ちょっとだけなら活動してみたいが、なかなか最初の一歩が踏み出せないモヤモヤ感だと考えました。そこで私たちは、そういった人々の背中を押すための活動として「ちょい活」を提案します。
ちょい活実践に向けたアンケート調査では、ちょい活対象となりうる「社会活動やボランティアに興味がある」と答えた人々の半数に所属団体がなく、8割はマッチングイベントに興味があるという回答を得ました。この結果をもとに、ちょい活を広めるための①既存の情報提供団体との連携②転入者向けの情報発信③仲介団体と連携したマッチングイベントの開催をめざします。①から③の詳細は次の通りです。
①現状、あまり連携していない地域のNPOやボランティア団体に声をかけ前述の“モヤモヤを感じている層”の存在を共有し、ちょい活浸透に向けて協力依頼をします。
②①の団体の情報を、市役所の転入窓口や公共施設に配架するチラシで告知します。また、可能な範囲で団体の活動内容をSNS上で発信しうまくマッチングにつながれば効果が出てくるでしょう。
③仲介団体と共催することで信用度を高め、団体と個人の両方に呼びかけることで効率的にちょい活参加者を増やすことができます。より多くの参加者層を獲得するため、「078」イベント内での開催を検討します。対象の団体がこれだけの数いる、ということを示し、既存団体への啓発になることも目的の一つ。もともと団体に登録している人、②の効果で団体に登録した人に加えイベントにふらっと訪れる人が現れることで、マッチングの可能性が広がります。
このプランの実行により、モヤモヤ層の人々がワクワクを感じられるようになり、活動を通して徐々に「土の人」として成長していきます。短期間の活動でも歓迎するという点が、これまでと違う新しい切り口だと言えるでしょう。また、新たな神戸の魅力を感じることで神戸への移住・定住を考える人が増えるかもしれません。これらのネットワーク拡大が、人口減少問題を抱える神戸で豊かな暮らしを考える中での「土の人」の成長・活躍につながっていくのではと考えます。
〈講評〉
飯塚さん|確かに、若い世代にとっては「ちょっとだけ活動したいけどべったりは嫌」というゆるいつながりに共感を持てるのではないかと感じながら発表を聞いていました。あとは既存の団体など受け入れ側の意識改革が肝になりそうですね。受け入れ体制の変化が一般的になればおのずと意識が変わってくるのかもしれませんが、せっかく潜在的なマンパワーがあるので、仕組みをうまくつくっていけたら良いですね。
山田さん|ちょい活を応援するというスタイルは面白いと思ったのですが、「ワクワク」を感じたいと思っているニーズについての補完がもう少しあるとよいかなと感じました。ワクワクが何かを探りながら、それを得るための対価が何なのかを掘り下げることができればもっと深みが出るのではないでしょうか。
永田|中間発表のときから面白そうだとは感じていて、綿密なリサーチとターゲット設定がしっかりしていると感じました。ある団体と組んで実際にアクションを起こしてみて、パイロットプランを実践してみるのもありですね。
B班 土の人
シェアスペース運営者の背中を押す仕組みづくり
私たちは、空き家・空き地問題のリサーチを続けた結果、コミュニティが生まれる人と人との交流の場が「豊かな暮らし」につながると考え、シェアスペースをつくる仕組みづくりを探すことにしました。
リサーチの中で、元町商店街にあるシェアキッチン「ひととば」を訪れました。このスペースには、独立したい、コミュニティを広げたい等さまざまな目的をもつ人が日替わり・昼夜交代制で出店しています。みんながやりたいことを持ち寄って場所をシェアしているのです。しかし、シェアスペースを運営を担うことができる人が少ない、という課題もあります。私たちはこの課題に注目し、やりたいことがあってもなかなか実践できない人は、同じ想いを持つ人がいれば一歩踏み出すことができるのではないか、と考えました。そして、地域住民のニーズを調査し、店主たちのコミュニティを拡大するための手立てとなる方法がないかを検討することにしました。そこで私たちが提案するのは、「マッチング×傘アート」でシェアスペースの運営者を後押しする活動です。
空き店舗をシェアスペースとして活用するため、まずは地域住民の「こんな場所がほしい」「こんなことがしてみたい」という想いを集め、その意見を分類して傘アートとして可視化することで、商店街を「映える」空間にしながら意見共有の場を設けます。運営側、客側それぞれの意見を目に見えるかたちにすることで、一歩踏み出せなかった人々の後押しをすることにつながるのです。さまざまな活動内容に対応できるよう、スペースには電気・水道設備を完備し、日替わり・週替りで運営していきます。「マッチング×傘アート」の活動は、地域住民のどうしの交流が生まれる場にもなるでしょう。
〈講評〉
飯塚さん|神戸市も「都市空間向上計画」として空き家問題に取り組んでいるので、傘アートを活用して住民の意見を可視化し空き店舗対策に活かすというアイデアはなるほどと思いました。傘アートに持っていくまでが難しそうですが、実現できれば空き家のリノベーションにもつながりそうですね。
山田さん|担い手不足の問題はおそらくどこにでもあり、運営側と活用法のマッチングも難しいと思うのですが、使い手視点から探っていくアイデアは面白いですね。場づくりをするうえで、空いた空間に対したストーリーがあるということが大事だと思っています。集めた想いからストーリーをつくることもできるし、ストーリーを描けるようなテーマ設定をしてあげるのもひとつの方法かもしれません。
永田|空き店舗の活用方法の事例としては、マリンピアもあります。空いたスペースを店舗で埋めずに、大学生に空間デザインを依頼して貸出したところ、徐々に需要が高まってきているそうです。これは場づくり→想いを集めるの順ですが、提案にあった想いを集める→場づくりの順のほうが確実で正しいとは思います。ただ、その正解が傘アートかどうかはわからないので、想いの可視化方法を模索すればさまざまな場所で展開できそうなアイデアだと感じました。
C班 水の人
シビックプライドを育み続ける
身近な人々をリサーチしていく中で、地域には風・水・土の役割を兼任し、地域を自分ごととして捉えられるシビックプライドをもつ“スーパーヒーロー”のような人の存在が浮き彫りになってきました。そして水の人=支える人と定義し、それは足りない部分を補っってつないでいくことができる人だろうと考えました。
私たちが課題として考えたのは、支える人が減っている現状から、そのスーパーヒーローがいなくなったらどうなってしまうのか、つまりスーパーヒーローでなければ地域を支えていけないのかという点。また、支える、支えられるの立場が固定化しないように立ち位置を変えられるような仕組みはないのか、という点です。
そこで私たちは「場をつくること」と「その場を利用すること」の2つを提案します。
合言葉は“MY PLEASURE”。今回は、社会に出る直前の高校生や大学生をターゲットにし、次世代の神戸、そして日本を担っていく人材になってもらうことをめざしています。たとえば、KIITOで開催している「ちびっこうべ」にかつて参加し、卒業した高校生や大学生もその対象です。若者たちがいずれ地元を出てもシビックプライドを持ち続けてほしい、そして戻ってきたときに集まることができる場所、そして神戸で起こっているいろんなことが耳に入ってくるような活動拠点があると良いと思い、市役所新2号館の中に設定します。この拠点には、いろいろな人が事業を起こすときにお手伝いができるシェアキッチンを併設します。ゆくゆくは、学校の先輩に会いに来るようなイメージで拠点に集まり、そのときにカフェ感覚でコーヒーのようなあたたかい飲み物があったほうがよいという考えからシェアキッチンを考案しました。このアイデアは、神戸電鉄の駅舎をつかったPRや、まち活、キャンペーンなどにも展開が可能です。また、このような表現をすると水の人ではなく風の人と思われるかもしれませんが、私たちが提案する水の人は風のようにあちこち飛び回るようなことはしない、というイメージです。そしてその中でシビックプライドに触れながら学生が育っていく環境を整えることができたらと思っています。
〈講評〉
飯塚さん|“MY PLEASURE”がシェアキッチンにつながる部分が最初ちょっと疑問だったのですが、説明していただいてわかりました。市役所2号館を拠点としてご提案いただきましたが、そこは賑わいの動線の一貫として考えられているので、若い世代がまちの中心部で活動して今後のその人のシビックプライドにつながいくというのは良いお話だなと思いました。
永田|集まって具体的にアクションプランを考えようというよりは、どちらかというと人と人や、人とイベントなど、さまざまなつながりを作る拠点ということですね。そういうことであれば、市役所の中もいいんですがもう少し“現場感”があってもいいのかなと。例えば、どこかモデルとなるエリアを設定してそこにできた拠点と若者たちのニーズとつなげていくというのも一つの方法かなと思いました。面白かったです。
D班 風の人
話のネタをタネに変え、地域住民の意見をすくいあげる仕組みづくり
私たちは、地域で生まれた話題(ネタ)をまちづくりに活かすアイデア(種)に活かす方法を考えました。地域の現状を見直す中で、課題解決をする人材というのはそもそも少なく、何をしてよいのかわからないという人が多い、また地域と関わりを持っていないと意見を言うに言えずやりづらいという状況が生まれているのではないかという意見が出ました。一方で、地域の中にいる人間ではない第三者の話が課題解決の糸口となるパターンもあるのではないか、という意見も出ました。D班のメンバーの一人の体験ですが、仕事で地域を回っている際に「あまり使われていないお寺を活用したい」「子ども向けの絵画教室を開きたい」など、地域住民の声は実際よく聞くそうです。この2つの要望は実際に掛け合わせることで実現に至ったそうですが、このように地域の四方山話をうまくすくい取り、第三者の耳に届けることができれば、地域の課題解決につながるのではないかと想い、話のネタを種にする仕組みづくりを提案することにしました。
検討中の仕組みとしては、まず地域住民のさまざまな声を神戸市やKIITOに集約させ、専門知識が必要な場合は追加のリサーチ等を進め、専門家の手を借りて課題解決に駒を進めるというプロセスを辿ります。意見を集める役については地域の活性化に関係する企業を想定しており、神戸市と地域包括協定を結んでいるところなど、あらかじめルートが確保されている場所ほどスムーズに進められるのではないかと思っています。すくいあげた情報を顧客情報として神戸市やKIITOに提供し、実現に向けて適切な方法に振り分けていきます。この吸い上げられた課題をKIITOのゼミのテーマとし、地域づくりにかかわりたい人を集めるという方法もとれると思います。ゼミの中で解決策を考え、実践するハードな部分までを経験することが実地訓練となり、より強く成長した風の人を増やしていけると考えます。また、実際に対象となる地域の企業などを巻き込みながら実施することで、のちに波及しやすくなり、地域から意見をすくい取りやすくなるのではないでしょうか。
第三者を介するものの、地域のことについて自分たちで積極的に意見を出し合い、自発的に解決できるように地域が成長していくための仕組みづくりを提案します。
〈講評〉
飯塚さん|何かイノベーションを起こすときには、既存にあるものどうしをかけ合わせ、いかにうまくつなげることができるか、という点がキーになります。その役割を担う人が重要だと思いました。
山田さん|意見を集める人には、課題の発言者と解決に導く人をつなぐための意見の翻訳能力が必要だと感じました。そして、これは第三者組織じゃなくてもつくれるのではないかと思います。大企業の中にも社内起業家のような立場がありますが、この仕組が必要なのかなと思います。
永田|班のメンバーが関わった事例が面白いと思いました。このモデルは神戸市全域というよりはローカルな話題ですよね。想いをつなげば実現するのに、うまくいっていないところが多いんですよ。つないでその場で盛り上がっても、続いていかないと意味がないので、つなぎかたのデザインが必要なんです。仕組みづくりがうまくいけばかなり可能性があるアイデアだと感じました。
E班 風の人
より質の高い「風の人」を未来の神戸に増やす
「人口減少時代の豊かな暮らしを考える」というテーマを考える中で、私たちは“風の人予備軍”の存在に注目しました。ここでいう風の人予備軍とは、熱量はあるが自信がない人、風の人の素質があるのに気づいていない人を指します。そこで今回、風の人予備軍が集まるきっかけとなるような「まちづくり士」を誕生させる提案します。
「まちづくり士」は、検定を受けて合格することで得られる資格です。現状、仕事として空き地・空き家問題に取り組んだりまちづくりに関わるプログラムに参加している人は多くいると思いますが、この「まちづくり士」の試験を受験するために勉強することで、まちづくりに関わるきっかけが生まれ、風の人予備軍、そしてのちの風の人を増やすことができるのではないかと考えました。まちづくり協議会など、すでにチームを組んでまちづくりに関わっている事例との違いは、イベント開催の告知自体が風の人予備軍へのアプローチになり、また、風と水の中間のような立場の人を育成できるという点を特徴としています。
まちづくり士をめざす人は、「まちづくり士」講座の受講→資格試験を受験→実地練習→面接というステップを踏むことで資格を取得することができます。検定という形式をとることで、風の人の数を増やすと同時に質も上げることができるのではないかと考えています。
資格取得後は、現状まちづくりに関わっている人に加えて都市部で活躍できる人が増え、まちづくり士が広がっていくというビジョンを想定しています。また、オンラインサロンや勉強会の開催でフォローアップすることで、風の人予備軍の集まる場づくり、ネットワーク拡大、同じ想い持った人とつながることで新しく気づきを得る場にもなるのではないかと考えます。ゆくゆくは神戸市のつなぐ課につながる動きも検討したいと思っています。
まちづくり士を通じて地域を知り、市外からの交流人口増加、イベント開催によるイメージアップや賑わいの創出につながり、経済効果を生み出すことができることも利点として挙げられます。
〈講評〉
飯塚さん|既存の団体との差別化をどうやって図っていくのかという部分と、最後に利点として挙げていただいたイメージアップの部分が気になりました。なるほど、イベント開催を告知することでまちを盛り上げようということなんですね。
山田さん|面白いアイデアですね。風の人と聞いて、気づきを与えてくれたり、追い風を起こしてくれる人のことを言っているのかなと感じました。ただ、まちづくり士というのがちょっとピンとこなかったです。まちをつくるという行為よりも、「そのまちに来ている」ことを発信して知ってもらうほうがまちの魅力に気づいてもらえるのではないかと感じました。まちづくり士は別の言い方もできるかもしれませんね。
永田|私もまちづくり士という言葉がちょっとひっかかりました。地域おこし協力隊は田舎の方で活躍することが多いですが、神戸市とKIITOで「地域おこし協力隊の“まち版”」をやってみたらいいんじゃないかと僕はずっと思っているんです。「まちおこし協力隊」はいま求められています。それが神戸で実験できれば面白いですね。
F班 風の人
混ぜ合わせ、循環させる仕組みをつくる人を育てる
私たちは、風の人=場を編む人、たとえば都市と農村のような相反するものを混ぜ合わせる人と考え、「ボーダーレス」というテーマを設定しました。いろいろなものを混ぜ合わせることによって循環型のエコシステム構築することにより遊休資源の有効活用ができないかと考えました。野生のイノシシが出現する現状から野生鳥獣の利活用を、また農村部での起業プログラムを考えている自信の活動にもつなげられるとよいと考えこのテーマを選びました。
神戸市によると、年間3000頭のイノシシを殺処分しているとのことですが、皮は革製品として使えても肉の活用に至っておらず、ジビエは販売ルートの確保が難しいため今はあまり出回っていないそうです。そこで、神戸にジビエのプラットフォームをつくることを考えました。神戸市の林業がうまくいっていないというお話しもうかがっているのですが、行政、土地の保有者、経営者の三者をつなげて、そこで生まれるネットワークを広げていくという方法を検討しています。神戸ビーフや日本酒に次ぐ神戸の食文化になるよう、
美食倶楽部やシェアキッチンづくりなどへの展開も視野に入れています。
〈講評〉
奥町さん|前職で市街地のイノシシ問題などに関わっていたのでコメントさせていただきます。全国的に見てもプラットフォームはいろいろなところにあって、プラットフォームづくりというのも流行っているようです。しかし、成功している場所にはやはり軸となる人の存在が欠かせません。今回のゼミでは「どう人を育てていくのか」という部分もテーマになっていたと思うので、その軸となる人をどう見つけるかも重要だと思いました。プラットフォームをつくっていくために「人をどう惹きつけるのか」という部分をご検討いただけたらと思います。
永田|テーマ設定には共感しました。説明していただいた中で、これが拠点を決めて活動するきっかけにするためのプロジェクトだということはよくわかりましたが、いきなりジビエにフォーカスしすぎたのがもったいないですね。途中から食のプロジェクトになってしまったように聞こえました。このプロジェクトをやることによって風の人がどう育っていくのか、最終ビジョンがもう少し明確に伝わるとよいと思いました。
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今回は、各班の提案内容やプレゼンテーションに対してコメントできるよう、あらかじめフセンを配布していました。班ごとにもらったコメントを見返し、自分たちの発表がどのように映ったのかを確認します。
そして最後は総評として、飯塚さん、山田さん、今回のゼミのテーマを持ち込んだ、当時神戸市都市局に所属していた秋田さん(現在はつなぐ課)、そして永田からもコメントをいただきました。
飯塚さん
ゼミが始まった当初、「人口減少問題に答えはない」と話しました。神戸市としても、いずれやってくるであろう人口減少時代に対しての具体的な策はまだ見えていない状況です。みなさんが、このゼミを通して人口減少問題に「人」がどう関わっていくのかを真剣に考え、今日6つの提案をいただいたことをありがたく感じています。その中でも、すぐにでも実現できるかもしれないアイデアもあれば、我々がいる都市計画という部署の中でできること、できないことも出てくるでしょう。しかし、ちょっとした気付きから仕組みを変えていくことが今後の具体的なアクションにつながることもあると思いますので、みなさんの提案内容を精査させていただき、どのような形で取り組んでいくか検討したいと思います。ありがとうございました。
山田さん
神戸に住んでまだ6か月の私が毎日考えているのは、まさにこのゼミのテーマでもある「豊かな暮らしってなんだろう?」ということ、そしてこの先「神戸は何で栄えていくんだろう?」ということです。このゼミのひとつの答えになるかどうかはわかりませんが、いくつかお話しさせていただければと思います。
「豊かさ」ってそもそも何だろう、とずっと自問自答しているんです。今までは経済的な価値で豊かさを測ることもできていたと思うのですが、今はそれが内面的な価値や社会的な価値など、掴みどころのないものに変わってきていると感じています。私が国交省で働いていて長らく感じているその“ものさし”は、「市民利益」だと思うんです。市民利益といっても所得や環境、安全など要因となるものは様々ですが、行政としてはそれが指標のひとつだと考えています。そのために、人口というのは豊かさを考えるうえで大きな要素になってくるのではないでしょうか。ゆえに、人口減少を少しずつ食い止めながら抑制することが必要になってくるのだと思います。
また、人口減少問題を突き詰めていくと、「質の高い雇用」問題になってくるのではないかとも考えています。質の高い雇用とは何か、それが実現できる企業とは何なのか、を考える際に、今回の風・水・土の人といったキーワードに落とし込んでいけたら面白いアイデアが生まれるのでは、と思いながら各班の発表を聞かせていただきました。最初にお話した「神戸はこれから何で栄えていくのか」についても、ハイテクな産業なのか、はたまた地の利を活かしたローテクな産業なのかわかりませんが、これからも引き続き考えていくことができればと思っています。良いアイデアをありがとうございました。
秋田さん
当初、「人口減少問題についてKIITOで考えたい」という相談を永田さんに持ちかけました。そして今回、シンポジウム、リサーチゼミを経たこのゼミで、みなさんに人口減少時代に豊かに暮らしていくには何ができるのかを考えていただきつつ、「人」が重要だという話は永田さんと前々からしていたので、裏では、こういうことを通して地域に旗を立てる人が生まれてくるような企画にしたいと思っていたんです。今回の発表で終わりではなく、ゆくゆくは人材育成につなげる流れを考えています。
いま私は神戸市の「つなぐ課」というところにいて、まちの中にある社会課題を見つけ出してちゃんと解決するためのチームビルディングを業務としています。社会課題に対応する人や組織をつなぎ、チームをつくることで社会課題解決を確実なものにしていくことを目指しており、A班やF班の発表もそうでしたが、埋もれている社会問題を引っ張り上げてマッチングすることも今後取り組まなければならないことです。しかし、いまつなぐ課にいるからといってそれらがすぐに実現できるわけではありません。
そこで現状の課題や課題解決できそうな人材をアーカイブ化することに取り組んでいます。私のもとに相談に来るやりたいことを持ったたくさんの人を、一旦カードゲームのようにカードとしてストックしておくことで、解決すべき課題が出現した際にその中から適した人材を選んでマッチングさせることができるんです。F班の「まちづくり士」のアイデアも、実現すれば「まちづくり」を体系化し、アーカイブ化できるのではないかと思っています。
今回みなさんには風・水・土の人に分かれて考えていただきましたが、私はいきなり風の人にはなれないのではないか、と考えています。まずは土の人を経験し、次に水の人として寄り添って応援する立場を経験、最後は風の人になって自ら種を運ぶような人材になっていくために、風の人に成長できるような土壌をつくっていきたいと思います。みなさんまだまだ自分たちのアイデアに納得がいっていないのではないか、まだ先が順分に考えられるのではないかと思うので、引き続き取り組んでいっていただけたらと思いました。
永田
長期にわたって取り組んできましたが、抽象的なテーマで、人口減少問題をどう捉えるかという部分や、出てくるアイデアすべてが実現可能にも不可能にも思えるのではないかという正直非常に難しいスタートをきったゼミでした。風・水・土の人に焦点をあてたのも、リサーチゼミの段階で挙がった「対処療法を考えるのか、もっと長い目で見て人づくりをするのか」という後者に注目し、KIITOのフィロソフィーである風・水・土の人づくりに重ねて、いわゆる主体的な人、人任せじゃない人を育てることが豊かさにつながると考えました。神戸の豊醸化を感じたり、神戸に生きているというリアリティが、今まで受け身だった人が人間力を高めて神戸のまちに貢献することにつながっていくのではないかと。
かなり概念的なテーマ設定をしたので、各班「風・水・土の人とは」という部分で問答を繰り返す場面も見受けられ、だいぶ難しかったと思います。このまま実行しましょうというプランが多いかと言われるとそうではなくまだまだだと感じていますが、四苦八苦した結果、スタートとしてはかなりいいところまでいっていると思います。
B班の想いを可視化するアイデアや、E班のまちづくり士など、クリエイターに入ってもらうなど、もう少し手を加えれば豊かなアイデアになりそうなものがたくさんありました。今後の継続方法としてはパターンがいろいろとありますが、次へのつなぎ方はいったん私たちが預かって議論していきます。今回のゼミで高まったこの想いを無駄にしないために、この先どうデザインしていくかを神戸市と一緒に考えていきたいと思います。ありがとうございました、おつかれさまでした!