2025/2/6
イベントレポート
災間スタディーズ#3では、古川友紀さん(ダンサー、散歩家)をナビゲーターにお迎えし、「おもいしワークショップ 湊川編 2024 ver.」を2024年11月23日に開催しました。身体を動かし、地形をたどり、土地の記憶にまつわる記録をつかって、過去の出来事に思いを馳せる。ゆっくりと時間をかけて、まちを歩くことから、自分とは異なる誰かの記憶にアプローチしてみる企画です。
*プログラムの詳細はこちら
この道行きノートでは、災間文化研究会のメンバーが「おもいしワークショップ 湊川編 2024 ver.」の道のりを記していきます。ひとつが企画がどう展開し、古川さんにプログラムの実施を投げかけたメンバーが何を考えたのか、その応答の記録です。今回は11月のワークショップ本番の様子をレポートします。
テキスト:田中真実(災間文化研究会)
写真:大泉愛子(KIITO)
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おもいしワークショップ当日、少し早めに出て、朝ごはんに新開地の立ち食いうどんを食べた。肩を並べたおじさんはずっと天気の話をしているし、受け答えをするお店のおばさんたちの声はやさしい。その後、喫茶店でコーヒーを飲む。満席になりそうなところで次の人が来ると「ここ空くよ」と、声を掛け合って席を譲っている。2024年11月23日朝の風景だ。
寒さを覚悟していたけれど、そこまででもなく、ただお天気雨に振られながらの8時間。その道行きをところどころ振り返ってみる。
湊川公園の時計塔の下に、小石を携えて集合する。持ってきた石を見せあい、触りあう。それぞれの石は、重かったり軽かったり、つるつるだったりざらざらだったり。所属や経歴といった情報よりもその人に触れた感じがした。小石は旅のお供だ。ナビゲーターであるダンサーの古川友紀さんに導かれ、歩くことでまちに触れる1日が始まった。
川の上と下を行ったり来たりしながら、進む。ふだんは歩くというと距離を考えがちだけど、高さが変わると見えるものや聞こえるものが変わっていく。川の近くに降りていくと、まわりの車の音などは小さくなって、川の流れる音が大きくなる。高い壁で川を意識させないようなところもあれば、花を植え、手入れをし、川が近くに感じられるところもある。この土地が経験してきたことが重なって今の形をつくっている。
広場のような場所に出た。古い地図を見るとそこには住居や商店が確かにあったのだけど、今は開けたところがあるだけで、見通しがよい。ペットボトルの水を振ってみる。さっき歩いてきた川の流れの音を思い出す。歩くときに物理的に触れているのは足の裏だけだけど、体全体で、そこにあった生活を思いながら歩く。
小高い丘のような会下山を登って、まちを眺める。奥の方に海が見える。水面がきらきらしている。山の下には湊川隧道が通っていて、水が流れている。上流側と呑口、下流側を吐口というそうだ。生き物っぽい。山を下るといったん見えなくなった川に再び出会うことができて、ちょっとほっとする。
昼ご飯は、温かい韓国のいわしのスープを食べて、一休みしたあと、海に向かってさらに進む。途中、さまざまな痕跡と出会う。明治のころまであった御船山の跡。阪神・淡路大震災で一部焼け焦げたクスノキや電柱、光が差し込むと犠牲になった人たちが住んでいたところが照らされる慰霊碑。求人チラシを貼った跡。「わが国ゴム工業勃興の地」の碑、ぐにゃとしたかたちだけど、石なので当然固い。阪神教育闘争の記念碑。近くにある説明文からはその断片しか分からないが、そこで起こったことを想起させる。歩きながら、時代も行ったり来たりする。
暗くなる前に長田の海にたどり着いた。見渡すところに人はいないけれど、猫が迎えてくれる。ふだん釣り人たちから魚をもらっているのか、とても人懐こい。一緒に歩いてきた小石は、船のロープを結びつけるためにつくられた係船柱(船乗りが片足を乗っけてポーズをとるやつ)に置いてきた。海を眺めていたいという自分の気持ちを置いてきたのかもしれない。
最後に、お地蔵さんがたくさん集まっているところで、神戸の災害を題材とした、安水稔和の3篇の詩をみんなで少しずつ読む。1938年の阪神大水害、1945年の阪神大空襲、1995年の阪神・淡路大震災。一人の声ではなく、何人かの人の声を通して聞くことで、出来事に対しての受け止め方はそれぞれ違うことをはっきりと感じられる。歩くことでまちに触れて、少しだけまちに近づけた1日だった。
おもいしワークショップの参加者は、いろんな地域から参加していて、年代も性別もバラバラ。持っている記憶やこれまで経験してきたことはそれぞれに違う。長時間、一緒に歩いてきたけれど、それだって、受け取り方は人によって別々のものになっているはずだ。それでも、そこにあったことを想像しながら歩くことで、出会うことのなかった人や触れることのなかった出来事と自分のどこかがつながる瞬間があった。
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「おもいしワークショップ 湊川編 2024ver.」の記録映像を公開しています。
※ 2025年2月22日よりKIITO館内でも公開予定です。
災間スタディーズ:震災30年目の分有をさぐる
期間:2023年11月18日(土)~2025年3月30日(日)
● 阪神・淡路大震災から「30年目の手記」を公開中!
募集期間:2024年1月17日(水)〜12月17日(火)
● 分有資料室
期間:2024年3月30日(土)~2025年3月30日(日)※月曜休(祝日の場合は翌日休館)